仕事の本質は仮説・検証 ―先進農家に問う、AI時代の農家の在り方

AI時代と叫ばれる昨今。農業も、少なからぬ影響を受けている。このままAIやITによって、農業は簡易化していくのだろうか。人間は、AIの補助役として活動するようになるのだろうか。

横田農場の横田修一さんは、そんな仮説に「NO」を突きつける。横田さんは20年前に父から農場を承継。すぐさまデータベースの必要性を感じ、エクセルから泥臭く、ICT化を進めてきた。

今回のできる.agriでは、そんな先進農家にAI時代の農家の在り方を聞いた。IT農業導入を考える若者にとって、参考になる知見がたくさん詰まっている。

 

ICTは、かっこよくない。スタートは泥臭いエクセルからだった

 

ー横田さんは20年前からICTを導入しているとお聞きしました。20年前にはどのような技術を導入していたのでしょうか。

最近、行政やメディアから農業ITについて聞かれることが増えました。みなさん「先進的な技術」を期待されて話を聞きにくるのかもしれないのですが、そんなにかっこいいものではないんですよ(笑)。特に20年前に使用していたICTは、いまから見ると「かっこ悪い」もの。一番最初に着手した農業ITは、エクセルで作った圃場データベースです。

父から承継するにあたって、田んぼでどんな品種・品質・量の米が取れるのかは、すべて親父の頭の中でした。父から話を聞いてもよかったのですが、長期的に運用していくうえで、データベース化する必要性を感じた。エクセルから始まり、HTMLを自分で書き、伝票に起こすツールを作ったり、できることをコツコツとやっていました。

 

ー効率化の手段としてのIT農業ということですね。

また、平成15年ごろから農地の規模が拡大するにつれて、よりデータベース化の必要性を感じました。すべてはICTが「必要だったから」導入したまでのこと。「ICTを導入したいから」という理由で導入したわけではありません。

ー規模拡大に伴って、ICTの必要性も高まっていった。

そうです。ロスが1%だったとしても、全体の収量が「100のときの1%」と「1万のときの1%」では、大きな違いがありますよね。収量を上げれば上げるほど、よりロスを減らす必要性がありました。より精密な仕事ができるよう、ICTによってコストを削減するのが大きな目的でした。

 

農家の「機械貧乏」を解消したい

 

ー横田さんはただ単にIT化しているだけでなく、実験的に新しい技術を導入しています。なぜ、先進的なチャレンジをしているのでしょうか。

日本の米農家全員が直面している「悲しい現実」をなんとかしたいと思ったからです。

ー悲しい現実?

現在、多くの米農家が生産原価を割った価格で販売せざるを得ない状況があります。いま、米作りをするにはコストが大きすぎる現状があるんです。1番のコストとなっているのが、トラクターやコンバインなどの機械の導入コスト。「機械貧乏」という言葉もありますが、補助金をもらって機械を買ったにもかかわらず、採算が取れていない農家がほとんどなんです。そんな現状を解消するべく「コスト削減」をテーマに掲げています。

 



ーなるほど。現状、コスト削減に成功している事例はありますか?

一般的に、コンバインは20ヘクタールに1台必要だと言われています。横田農場は140ヘクタールの圃場で耕作していますが、田植機・コンバインそれぞれ1台で全ての圃場を作業しているんです。機械の減価償却費が削減されたことで、大きなコスト削減に繋がりました。一般的に、60キロの米を作るためには1万7000円かかると言われていますが、横田農場は9000円で作ることができます。

ーすごい!どんな方法で実現したんでしょうか?

理由の1つは、田んぼを密集させている点にあります。他の農家が規模拡大をする際、圃場が点在してしまうことが多いのですが、横田農場では140ヘクタールの農地を2.5キロ四方に収めています。たまたまうちの地域で稲作を辞めていく人が多かったこともありますが、コンパクトに収めるのは重要です。

また、コスト削減に寄与しているのは多品種栽培です。多品種を栽培することのメリットは農作業の時期をずらせること。コシヒカリの専門農家では田植え・稲刈りを1週間で終わらせなければいけませんが、うちでは田植えに2ヶ月、稲刈りに2ヶ月かけることができます。1台のコンバインの稼働時間を長くすることで、機械の減価償却費を平均の3分の1にすることができました。

ー経費削減により、利益を確保する。

必要なものを計算して、なるべく自分で見える範囲のコストを削減する。投入コストを全力で下げました。でも、それだけでは限界を迎えてしまうタイミングがきてしまって。これ以上、利益を計上できないところまできてしまったんです。

 



これ以上投入コストを減らしても、品質・収量に影響が出る。次の打つ手を模索した結果、収量を増やして収穫物あたりのコストを下げるべきと感じたんです。そこで、たくさんの田んぼを収量コンバインで調査し、分析することから始めました。

すると、90点の田んぼから、50−60点まで出てきます。そこで、50-60点の田んぼは何が悪かったのかを分析する。すると、水位が肝要であることに気づいたんです。そこで、水位センサーの必要性を感じ、導入。現在は水位センサーの実験中の段階ですが、少しずつ結果が出始めています。

農家の仕事は「仮説・検証」

 

ーそんな実験中の横田農場ですが、今後の展望を教えてください。

現状、課題の1つとして人件費があります。社員にはなるべく、高い賃金を払いたいし、やりがいのある仕事を与えたい。ICTを使用するなかで、どのように社員が自律的に動けるかを考えています。

ICT機器が示す数値の意味を理解し、「これダメだったのかな?」とか「去年はどうだったのかな?」とか、「いまこれ、どんな状況なんだろう」…と、自律的に行動できる環境を作っていきたいですね。

ーこれから、農業にICTがどんどん参入していくと思います。そのことについて、どう思いますか?

僕らがやりたいと思っているのはいかに効率的に品質を高めるか。AIやICTはあくまで手段に過ぎないと思っています。数字がでたところで、そこから仮説・検証・PDCAを回すのは人間の役目。農家の仕事の根幹は変わらないと思っています。

 



現在ではディープラーニングで、仮説検証もAIがやってくれるという話も出ています。しかし、僕は人間の目で見て試行する必要があると思う。AIには見えない、人間にしか見えないポイントがあります。AIに頼り切るのではなく、自分の目を信じてやるべきことを見つけるのは、これからの時代必要になってくるでしょう。

この話を子供にすると「パパ、古いよ」なんて言われてしまうんですけどね(笑)。まぁ、自分にできることをコツコツとやっていきます。

 

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