「人手がなくてもファンづくりはできる」直売所×ECで発信する農業女子

幼い頃から慣れ親しんだ祖父母の畑。思い出の場所がなくなっていく様を目の当たりしたことが、農家を継ぐきっかけになったと語るのが、今回の登場人物である安田加奈子さん。

安田さんにとって実家が代々営んできた農業は、ただの仕事ではなくいつもそばにあって自分を育ててくれた存在でした。そんな彼女がITを通じて、自家の野菜についてより多くのファンをつくろう、もっとリアルタイムな情報を発信しようと取り組む背景とは。

元保育士という経歴の安田さんが目指す「自分だけでなく、地域の子どもたちのためになる農業」の姿に迫りました。

 

父の代から独自の販路に力を入れる

 

西東京市に位置する、安田さん夫婦が経営する「やすだ農園」は、加奈子さんの実家で代々受け継がれてきた、一見すると「よくある農家」のひとつ。

ですが、やすだ農園にはある少し変わった特徴があります。それはIT活用を含めた独自の販路づくりに力を入れていること。70a(アール)ほどの農地で育てた野菜を、直販、大手スーパー、それから農水省が運営する「農業女子プロジェクト」の縁でつながった百貨店などを通じて販売しているのです。

 

 

独自の販路づくりには父の代から力を入れ始めました。昔は今より種類は少なく、量を多く栽培していたのですが、市場(いちば)に出すので値段が安かったと聞いています。今では栽培する野菜の種類を増やし、市場にはほとんど出さず、A品は直接取引できる販路が中心です。B品や余りは市内の飲食店に販売しています。

きっかけとなったのは近くのスーパーで産直野菜コーナーができたこと。祖父母の代からだんだんと農地を縮小せざるを得なくなっていたことも相まって、売り方を工夫していかなくてはならなくなった結果、現在の形にたどり着きました。そんな「直接売ること」へのこだわりは、生産する品種にも表れています。

やすだ農園で生産しているのは、トウモロコシ、ほうれん草、枝豆、キュウリ、トマトなど味の違いがわかりやすい品種に絞っています。年ごとに新しい品種に挑戦するなど毎年試行錯誤を重ねているんです。2017年は天候も悪く、獣害もあって思うようにはいかなかったんですが、それでも2016年よりはいい成績が出ています。

 

 

こだわりの売り方の中でも、特に成果につながっているのが畑に併設した直売所だそう。例えば、これまで処分していた間引き大根も、直売所なら喜んで買ってくれるお客さんがいます。それならば、市場には並ばない野菜との出会いを作ることで、100円や200円でも利益にしていかなければならないという夫妻の思いがありました。

 

マルシェで出会ったお客さんとつながり続けるためにITを活用

 

そんなやすだ農園が2017年に入って取り組み始めたのが、インターネット販売サービスを通じたお客さんとのコミュニケーションです。

2017年の3月に開催された農業女子プロジェクトのイベントに参加した加奈子さんは、仲の良い別の女性農家さんから直販アプリについて聞いたことをきっかけに、サービスの活用を始めることにしました。

前々からネットでの販売に取り組んでみたいとは思っていたんですが、当時直販アプリの多くでは、野菜を扱うことができなかったんです。でも、そのとき知ったBASEという直販アプリでは農家が直接扱う野菜が売れているという実績もあった。直売所の延長としてお客さんに届けてみたい、と挑戦することに決めたんです。

 

 

当時取り組んでいた直売所のやり方と近いものを感じた、と語る加奈子さん。さらに夫の弘貴さんも当時の課題感についてこう続けます。

やっぱり直売所に来てくださるお客様は多かったです。でも2年くらいやって地元の人しか来られないため、伸び悩みを感じていたのも事実で。ただ、直売所ではスーパーでは出せないものもお客さんに届けられる。そんな感覚をお客さんに届けられるといいと思ったんです。

 

 

そうして始めたネット販売。しかし、これまで対面で新鮮なものを届けることにこだわってきたやすだ農園。ネットならではの特性に苦労することもあったそうです。

実際進めていったらいつ注文が入るかわからない、ということが課題になりました。トウモロコシだったら採れたてを届けたいというこだわりもあり、そことの兼ね合いをどうするのか、だとか。いろいろやることを考えているとちょっと大変だなと思うこともありました。

試行錯誤しながら直販アプリの活用を始めた安田夫妻ですが、あるとき「自分たちらしい」活かし方を見つけることになります。それは、アプリでの情報発信を通じて、リアルで出会ったお客さんに継続的なファンになってもらうこと。

「直売所で今日は何を扱っているんだろう」という興味関心を持っていただいていることがわかったんです。なので、それをアプリやSNSを通じて随時届けられるようにしようとしました。そしたら「サラダセット出たのね」と買いに来てくれるお客さんがいて。他にもリアルの直売所では発信できない「種まきした」とか「芽がこれくらい出た」とか、そんなことを伝えて親近感を持ってもらうのにぴったりだと気づいたんです。

 

 

オンラインでの発信を通じて、オフラインで買ってもらうことにつなげる、やすだ農園の取り組み。実は、マルシェに出店したときに出会ったお客さんにとっては「そのあと買える場所」として、IT or オンラインが役割を果たすという逆の流れも生まれているといいます。

ITツールを使うことで人の手を使わなくてもファンづくりができているんです。

縮小する農地、自分たちだけで何もかもをやらなくてはいけない環境。多くの農家が抱える課題に試行錯誤しながら活路を見出してきた加奈子さんの眼は、まっすぐ前を見つめていました。

 

思い出の場所がなくなる経験をさせたくない

 

独自のやり方で活路を切り開いてきたやすだ農園。「農家の長女」として育った加奈子さんが農家を継ぐきっかけとなったのには、祖父母との思い出が染みついた農地がどんどん小さくなっていく様を目の当たりにしたことがありました。

おじいちゃん、おばあちゃん、ひいおばあちゃんがいて、昔から「ここ(で農業)をやるんだよ」と言われて育った加奈子さんにとって農家を継ぐことはもともと「自然なこと」だったと言います。小学校から帰ってくると、お父さんおじいちゃんおばあちゃんが農作業をしていて、ひいおばあちゃんが薪でおふろを燃やしてくれ母が料理……加奈子さんにとって、農地はいつも身近にあってかけがえのないものでした。

 

 

ところが、時代の流れとともにそんな環境にも変化が訪れます。

家が都内なので、周りの畑がどんどんなくなるのを見てきたんです。まず雑木林がなくなった。思い出の場所が全部建売住宅になってしまって……。それからおじいちゃんが亡くなって、おばあちゃんが亡くなって。そんな光景を相続の過程で見てきたんです。

社会人になって保育士として働いていた加奈子さんにとって、その光景は単なるノスタルジー以上の意味を持ちました。

保育士の観点からも、雑木林や農地というのは子どもを育てるのに必要な場所だという思いが強くあります。だからこそ、守りたいという想いもあったのかもしれないな、そう思います。

 

 

そうして農家を継ぐことを改めて決意した加奈子さんは、保育士、幼稚園教諭、子ども環境管理士の資格を生かし、農水省からの依頼を受けて食育の講師をするなど、農業を通じた教育への貢献にも力を入れています。

農地を使っての食育プログラムなどを行ない、多くの子どもたちに「自然」とふれあう場を提供できたらなと思います。自然体験の思い出があれば、大人になったとき環境問題なんかにも意識を持ってくれると思っています。私自身、社会のことが農業と結びつくし、農地に囲まれて育つ中で知ってきたこともたくさんある。農業を通じて地域のために何かできればいいかなって思うんです。

枠にとらわれない発想で、農地の縮小に負けない活路を見出して挑戦を続けるやすだ農園。その原点には加奈子さんが子供の頃から育んできた農地への想いがありました。農家が受け継ぐものは土地や技術だけではない、やすだ農園のお二人の姿はそんなことを感じさせてくれました。

 

活用ツール紹介

ネットショップ作成サービス「BASE」 (https://thebase.in/
初期費用・月額費用が完全無料で、あなただけのネットショップを簡単に開業できます。今までECサイトを作りたくても時間・お金・技術さまざまな理由で始められなかった方の悩みを解消します。
>BASEについて

その他の記事

お問い合わせ