「人を大切に」という思いから始まったIT農業。チャットとクラウドで社内連携が円滑化

今や、すっかり身近になったチャットツール。家族や友人とのやりとりで利用されている方も多いのではないでしょうか?

そんなチャットツールを、社内の連絡に使っているのが、神奈川県三浦市の元気もりもり山森農園です。導入を決めたのは、代表の山森壯太さん。

山森さんは、従業員とのやりとりにはチャットツール、作業の記録にはクラウド、お金の管理には会計ソフトを利用。さらに、モニタリング装置でデータやグラフを従業員と共有している、まさにIT農業の「フル活用家」です。

紙で記録や管理を行っていたときよりも、社内の連携がスムーズになったと語る山森さん。IT導入の背景にある「みんなが人間らしく働けるような環境を保ちつつ、企業として成長していきたい」という思いがどう実践されているのかその現場に迫りました。

 

紙の記録の山が、チャットとクラウドに!

 

ー実家の農家を継ぐのは昔から決めていたのですか。

法人化をした2010年に、父に「戻ってこいよ」と声を掛けられたのがきっかけです。当時は会社員の 5年目でした。

僕にとっては、裁量が大きいのが農業の魅力でした。朝畑に行くと気持ちが良いし、小さい種が育っていくのも感動的ですよね。他の会社に勤めて、初めて農業の良さが分かったという面があります。

ー就農して、大変だったことは何でしょうか?

作業の記録です。エクセルでフォームを作って、紙で記入していました。忙しくなると、つい記入を忘れてしまうことが多くて…。従業員にも記録をする意味を伝えきれていない部分がありました。

防除の履歴や肥料の履歴もエクセルで管理していました。作業を終えて、疲れた状態でパソコンを開くという作業がもう嫌で(笑)。

ーそこで、チャットツールや、業務アプリ構築用のクラウドサービスを導入されたということですね。

そうですね。就農4年目の2015年に、ダイコンやキャベツなどの重量野菜だけでなく、タマネギやニンジンにも力を入れるよう、方針を変えたのです。重量野菜の栽培は、従業員にも作業の負担が掛かってしまいますからね。

そうしたら、作業体系が大幅に変わって、ものすごく忙しくなってしまったのです。なかなか一貫した指示もできなくて。記帳や電話対応も追いつかないぐらいになってしまいました。

そこで、思い切ってチャットと業務改善ツールを導入したのです。

スケジュールをツールに入れて、必要最小限の変更のみを行うようにしました。そうすると、指示を受ける側も、作業や必要な道具の予測が立てやすくなる。僕と作業時間が異なるスタッフもいましたが、チャットツールのカレンダー機能で、それぞれの予定や仕事も把握しやすくなりました。

ーチャットには、記録の機能もあるんですか。

問題が発生したら、カテゴリーに分けて記録をするようにしています。作業の報告も、コメントができるんですよ。読んだら「いいね」をつけておく、なんていうルールを作っています。

 

チャットツールの画面。報告事項は、カテゴリーに分けて記録している

 

ー全員で問題を共有すれば、ヌケモレなく対処ができますね。

備忘録のような感じで使っています。紙に書いたり、エクセルにまとめたりするより、断然見やすいですね。

ー収穫の記録については、どのようにしているのでしょうか?

収穫記録のアプリを作って、みんなに記録してもらっています。例えば、13kg入りコンテナ1.5個分のキュウリを収穫、なんていうふうに。期末にエクセルでダウンロードして、キュウリがトータルで何kg収穫できたのか確認します。在庫の管理もこのアプリで行なっています。

ー記録のフォーマットは、自由に設定できるのですか。

はい。データベースをもとに、記入・保存すると、記録フォーマットができる、というような仕組みです。単価や、圃場ごとの製造原価も出してくれます。苗代と肥料代と農薬代も記録可能です。

ーチャットを導入して4年目。コミュニケーションにどんな変化がありましたか?

ITを入れて、仕事上のコミュニケーションはかなりスムーズになりました。でも、今度は対面して会わなくなってきてしまって。

逆にアナログの会議や雑談などの「感情のやりとり」が重要になってきたのです。それまでなかった定例会議を開くようにしました。定例の会議をすると、いろいろな問題や希望が可視化されるんですよ。「半休が欲しい」とか「今使っている手袋よりも、少し小さいものが欲しい」とか、スタッフからちょっとした希望をたくさんもらえるようになりました。

ーチャットだと言いづらいこともあるのかもしれませんね。

はい。こちらからも、「何か困ったことある?」「これまではなかった賞与を出そうと思っているんだけど、どうかな?」とか、色々聞くようになりました。これまで雑談をあまりやってこなかったから、ギクシャクしているんですが(笑)。

ITを導入したことで、逆に「感情のコミュニケーション」が重要になってきました。ハウスを増床するときなどにも、事前に会議で伝えておいて、足並みを揃えるようにしています。対面のコミュニケーションの重要性を実感しているところです。

ー環境測定装置も使われていると伺いました。

はい。経験がなかったので、まずは地域の気象条件などのデータを確認できるようになりたい、と思ったのです。

外気象とハウス内の気象のみを見ています。ウェブカメラでも、常にハウスの状況を自分で見ています。やっぱり、常にハウス内を見ることができるというのは安心できますね。作業の段取りを考えるのにも役立っています。

ーどんなデータを計測していますか。

温度と湿度とCO2、飽差です。それらのデータを、窓の開閉の判断などに使っています。

 

 

ー導入前と変化はありましたか?

データをグラフ化したのは大きかったです。上下の動きや、病気の発生のタイミングを振り返って、社員と画面で見て話し合いをしています。「この時期は湿度が高くなるから病気が出たんだ。だから予防的にこのタイミングで薬剤を蒔こう」とか。振り返りができるようになりました。

ーグラフで見ると、分かりやすいですよね。スタッフさんとの共有もしやすくなったのではないでしょうか?

そうですね。「社内での共有」というメリットが大きかったですね。

ー人事や会計など、管理にもITを使われているそうですね。

クラウド会計の「freee」を入れたり、タブレットで出勤を管理するツールを導入したりして、事務作業がだいぶ減りました。そのおかげで、とにかく時間ができるようになりました。伝票や納品書、請求書も簡単にできるようになって、本当にありがたいです。

今は僕たちのようなスモールビジネスでも、簡単に管理できる仕組みができているので、会計などのサービスはどんどん使っていきたいですね。

 

「企業としての成長」の先にある、「人と地域」への貢献

 

ーITを使っていて、地域の人から反応はありましたか。

業務アプリについては、近隣の若手農家から「システムそのものを売ってほしい」という声がありました。サービスを買っても、自分でカスタマイズするのは難しいんですよね。だから「売ってほしい」ということだったようです。

でも、売らなかったですよ。うちに最適化して作っているシステムなので、せっかく買ってもらっても、使いこなすのは難しいだろうと考えたんです。

ーその若手農家さんと同じように、「これからITを導入したい」と考えている人はたくさんいると思います。そんな人に向けて、アドバイスはありますか?

「時間をお金で買う」という発想が農業には必要だと思います。だから、クラウド会計ソフトなどを使ってみるのが、一番良いかなと感じています。

使い方が分からなければ、使いこなしている人たちの輪の中に入ってみるとか。農家の場合、畑に出ないで外出するのは後ろめたい気持ちになることもあるかもしれません。
それでも、外の世界に出た方が良いですね。ちょっとしたことから始めることが、IT導入につながるのではないでしょうか。

ーまずは外に出よう、ということですね。山森さん自身の今後の展望を教えてください。

従業員がみんな余裕を持って働ける環境を保ちつつ、売り上げを伸ばしていきたいです。

ーお話を伺っていて、「人を大事にしたい」という思いを強くお持ちだと感じました。今後も、地域密着で販売していくのでしょうか?

そうですね。道の駅や地元のスーパーが中心になると思います。農業は地域資源を活用しつつ、地域と一緒に営んでいくビジネスなので、「地域にどれだけ還元できるか」という視点も大事にしたいです。僕たちが企業として成長した結果、この地域の農業にとって、「山森農園があって良かった」と言われるような存在になれたら良いですね。

 

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