ITだからできる「顔の見える売り方」 元エンジニアが挑む嘘のない農業

「農業という“0から1をつくる”世界で勝負したかった」

そう語るvegewonder(ベジワンダー)代表の小山直樹さんは、元エンジニアという経歴を持つ異色の農家です。

農作物だけではなく、工場や環境制御の製品づくりにまで興味のアンテナを広げる小山さんにとって、農業にITを活用していくことは「嘘のない物語」を消費者に届けるための手段。

実家からの独立、そして家族の病気を経て見えた小山さんならではの農業との向き合いかたに迫ります。

 


 

親のやり方に限界を感じて「おもしろい方」を選んだ

 

小山さんがエンジニアから農業の道へ転じたのは30代のとき。サラリーマンとしてマネジャー、経営企画など様々な環境を経験する中で、自分でも何か「0から1を生み出す仕事」に取り組んでみたいと考えたことがきっかけでした。

いくつかの選択肢がある中で農業を選んだのは、実家が農家だったから。環境があればエンジニアとして独立していたかもしれない、という小山さんは農業を選んだ理由について「他の人がやるより身近だから」と語ります。

いつかは実家の農家に関わりたいと思ってはいました。仕事をしていて一番働けるのは30代だし、もし失敗しても30代の内なら戻ることもできる。それなら、自分にとって身近なフィールドでもある農業に挑戦するのがいいんじゃないか、そう思ったんです。まったくかかわりがない人が始めるよりハードルは低いんじゃないかって。

 

 

そうして始めた農業。最初は親の手伝いをしながらお給料をもらって働いていた小山さんだったが、徐々にそのやり方に限界を感じるようになりました。

両親とパートさんと私で生み出す売り上げが、私が一人で働いているときの年収より少ないんです。このままではいけない、そう思って自分なりのやり方を試してみたいと思って早めに独立することを選びました。うまくいくかどうかより、どうせならその方がきっとおもしろいから。

 

「おいしい」だけが正しさじゃない

 

親元を離れて、二度目の「挑戦」を始めた小山さんでしたが、ほどなく現在の野菜づくりの原点になる、ある出来事に見舞われます。

試行錯誤していたときに、奥さんの両親が病気になったんです。大学生のころから知っている人で、自分の中では大きなショックを受けました。何かしたいけれど、病気について素人の私が調べても意味がない。ほかにできることはないか、と考えて食べものによって自分の免疫を上げて病気を克服していくための一助になる、という自分の役割に行きついたんです。

それから小山さんはニンジンの世界にのめりこんでいきました。とはいえ、本格的な医療ではなく、あくまでも毎日手軽に摂取する習慣をつくってもらうためのもの。いかに楽しみながら体に取り入れてもらうか、そのために最高のニンジンジュースづくりを追求しました。

 

 

最初はニンジンの中でもおいしいといわれる7品種くらいをつくってみました。市長を呼んで試飲会を開催したり。飲みやすいか、土臭さが残っていないか、などアンケートをとって集計、その中から選んだものを今はつくっています。

小山さんは今、畑から少し離れた場所で「Whynutsu?」という音楽設備付きのスタジオ運営に携わっています。合宿やパーティーなどに貸し出し、そこに集まった人たちにニンジンを自然と味わってもらう場所として考えているのだそう。

 

 

目指しているのは、故小林麻央さんや故スティーブ・ジョブズさんのような「健康のためにニンジンや食べものの重要性を知っている人」が世の中に増えること。病気になってからでは遅い、だからこそ元気な人に向けて元気なうちに伝わりやすい方法で伝えていくのだ、と小山さんは語ります。

おいしくないという人もいる。でもコンビニなんかで売っている商品は添加物などを入れて“おいしい”と感じるように作っているんです。だから、おいしくないと感じる人もいてこそ本来のものなんですよね、人の体をつくるために野菜を作っているのに体を壊してしまっては元も子もない。

小山さん曰く、「農家は野菜にとってのお医者さん」。健康なものを作って、食べた人の子どもが元気になるように。野菜が病気になって売れなければ、予防するためにどうするかを考える、それが小山さんにとっての「農家の仕事」なのです。

 

ITで顔の見える農業を

 

そんな小山さんは2016年、「ポケットマルシェ」という農家と消費者を直接つなぐ、オンラインコミュニティーサービスの活用を始めました。

 

 

小山さんが農業においてITでできるようになったこと、それは「本当に必要としてくれる人」に自分がつくった野菜を届けられるようになったことだと語ります。それは、「買ってくれた人とはできるだけ直接会いたい」というほどお客さんとの関係づくりを大切にする小山さんにとっては、とても大きなことでした。

今の農業っていくらでも嘘をつけてしまう世界なんです。たとえばスーパーで顔写真を貼って売っている野菜がある。立派なホームページがある。でもその過程にプロの手が入ってしまうことで、多少なりとも嘘が生まれてしまう。私は野菜の裏側にあるストーリーを含めて、すべて直接伝えていきたい。

お客さんとのつながりを大切にしたい小山さんにとって、インターネットはとても強力な武器でした。しかし、ホームページの立ち上げから何からをすべて自分でやろうとすると、お金も時間も足りない。あきらめざるを得ない状況でした。

ところが、すべてを簡単にできるツールと出会ったことで、小山さんは自分のやりたかった農業に一気に近づくことができました。

 

 

営業しなくても、コミュニティー上にお客さんがいるので売れやすいし、自分が想定している人たちに買ってもらうことができるんです。自分で自由に出品できるし、定期便があるので定期的に買いたい人、つまり長く愛してくれる人とも出会える。ただ野菜を買う、のではなく“農家を買う”ような感覚でやり取りをできることが嬉しいですね。

そんな小山さんは、これからの展望についてこんなことを語ってくれました。

ジューサーをつくって、大切な人にニンジンを送るきっかけづくりをしたいですね。もっと人参の格を上げていきたいです。あとは同じような価値観を持った農家さんと広域ネットワークを組んでいきたい。今はネットでつながれる時代、もっともっと面白いことができると思うんです。海外の方向けにグリーンツーリズムをやったり、“農家がやる”から面白いことを。

元エンジニアらしく、「ものづくり」のような視点で農業に取り組む小山さん。その裏側にあるのは、徹底して食べる方のことを思う姿勢でした。インターネット時代だからこそつながりあえる消費者と生産者のあり方、そのモデルケースとなるような活躍を今後も見せてくれることでしょう。

 

 

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