温度管理システム導入が生み出した時間で、新規就農者支援に向き合う

ITツールを活用しながら、農業のあり方を内側から変えていこうとしている若手農家がいます。茨城県・つくば市でイチゴ農園「つくばねファーム」を営む小辻孝輔さんです。

 

新卒の仕事を1年で退職、大学時代を過ごしたつくばで新規就農。イチゴ狩りができる体験型農園をオープンし、当初10a(アール)から始めた圃場も35aまで拡大しました。

現在では、IT農業を活用しながら「誰もが農業に取り組める仕組み」づくりに取り組んでいます。

 

ITがあるからこそできるようになった新規就農支援とはー?小辻さんにお話を伺いました。

 

模索しながらの新規就農。地道な活動が知名度向上に

 

新卒では営業の仕事に就いたという小辻さん。違和感を覚え、1年で退職しました。当時は文章を書く仕事を目指していたそうです。しかし、伝えたいものが自分の中にはないことに気づきます。

本当にこれであっているかを模索する中で誘われたのがつくばでの田植えのアルバイト。

農業をやればネタがたまって、伝えたいことができるのではないかー。そんな考えから農業に携わり始めました。

 

農業に関わる前は社会が狭かったので、伝えたいこともなかったんですよね。農業のおかげで視野が広がりました。興味や人脈も広がったと感じています。

 

 

10年前に、10aの作付け面積をスタートとし、大学時代を過ごしたつくばの地で新規就農。既に新規就農をしていた先輩のつながりで、現場の運営者がいなくなった農事組合法人を引き継ぐ形ではじまりました。先輩の顔があるからこそ、新規参入もしやすかったといいます。1年間イチゴの研修と準備をして、翌年に栽培をスタートしました。

 

つくば市には当時、イチゴ狩りできる観光農園がほとんどなかったため、イチゴを作物に選びました。ニッチな市場を狙って栽培を始めたのです。お客様は地元の幼稚園や福祉施設、ファミリーなどが多く、現在も同じです。

 

認知を作ったのは、地道な活動でした。のぼりを立てたり、中心地の飲食店に配ったり。新聞や雑誌で取り上げられ始め、ウェブサイトという窓口を作ったことで、だんだんと認知度が上がっていきました。

 

新規就農して、直接お客様とつながるために、特に最初の5年間は自分の存在を知ってもらうことが大切だと実感しました。『畑に行こうかな』と思ってもらうこと。例えば、販売先に小さなショップカードを置いてみる。口コミで来てくれる人が多いですね。

 

小辻さんは、最近は特に地域の人との関係づくりにも力を入れている、と語ります。はじめから大きな規模で取り組んで失敗すると、地域の人からも信用を失ってしまいます。最初は小規模で手堅く始め、同時に5年後・10年後のイメージを地域の人に共有して、少しずつ分かってもらえるようにしたことも重要な要素の1つ。例えば、現在は別法人を立ち上げサツマイモを栽培しています。


任意団体として、60aの面積でスタートし、現在は約20倍の12haという作付け面積で栽培に取り組んでいます。

 

そうしていくうちにだんだんとリピート客も増えてきました。最初に来てくれたお客さんの中には、当時妊娠していた女性も。彼女の子どももすでに10歳、今では一緒に訪れてくれるのだそう。

 

作付け10aで始めたイチゴの圃場も、現在では35aにまで広がっています。

 

 

最終的には、“おばあちゃんち”のような空間づくりをめざしているという小辻さん。また来たいと思ってもらえるよう、日々場所づくりに取り組んでいます。

 

こちらとしてはいつ来てもらっても嬉しいんです。行ったところでイチゴ狩りをしていても、縁側でごろごろしていても楽しめるような、決まった理由がなくても居場所になるような空間を作りたいなと思います。

 

自分の故郷は長崎なんですが、(自分の)子どもにとってのホームタウンはここです。喜んでアイデンティティーを持つことができるぐらい価値のある場所になるように、と思って投資しています。「貢献したい」というよりは、まず自分がやりたいと思えることが、結果的に周りにも受入れてもらえたら、と思ってやっている感じですね。

 

 

一歩ずつのIT農業化

 

今では温度管理システムなどITも積極的に導入しているつくばねファーム。小辻さんは、施設園芸に取り組む以上、二酸化炭素など、露地栽培では制御のむずかしい栽培条件を、できるだけコントロールしたほうがいいという考えを以前から持っていました。

 

 

つくばねファームの環境制御は、どこにでもある最高最低温度計での温度管理から始まりました。グラフ管理、二酸化炭素の調査と少しずつステップアップし、精度を高めていったといいます。環境をどの程度まで制御していくかも小辻さんの悩みでした。特にコスト面で、大規模な環境制御を自分たちだけで行うのが難しい状況の中では、導入するIT技術を取捨選択していく必要がありました。

 

環境制御の目的をはっきりさせた上で導入していく必要があると考えました。『施設園芸の管理技術を使ってどこまでのことをしたいのか』という目的意識ですね。栽培歴もまだまだ浅く、投資しようにもすべての必要条件を理解しているわけではないので、しばらくはキャッシュフローと相談しながら投資を抑えて、アナログで管理しきれない部分を補完していく。使う以上は、設備の導入が短期間でプラスになるようにしたいです。それぞれの機械の長所を生かして取り入れていこうと思っています。

 

少しずつ、無理のない範囲で投資をしていく。つくばねファーム流のIT導入です。最長でも5年以内に投資を回収できるようにしているといいます。

 

圃場のデータ化とスタッフとの共有

 

圃場が増える際には、どうしても全てに目を配ることはできません。そんな時に役立つのがデータです。スタッフさんに数値化して具体的に教えることができるし、その土地に合った条件を探りやすくなります。データで振り返れば、スタッフさんの失敗も未然に防ぐことも可能です。

 

なるべく均一な条件を入れられるように、条件を揃えられるよう心がけています。人でカバーできない部分は機械にどんどん渡していきたいです。補完して、余白の時間を作ることができた方が結果的にはよいと考えています。

 

 

もちろん、機械に任せていても生産に力を入れていることには変わりません。必要なことを、必要なだけやるようにすることが大切なのだといいます。

 

時間に余裕を増やしていくほうがいい仕事ができると思います。機械を導入することでできた時間を管理や決済、やりたいことを決めるのに使う。自分で作業をしすぎない。そういう余白が必要です。自分のモチベーションも体力も波がある中で、1つIT技術を入れておければ、ムラがある時にも一定の管理をすることができます。外部の方とやり取りしたり、組織作りをしたりする時間もできるようになりました。

 

「続けていくことを楽しむ」農業を続けられる仕組みづくり

 

10年近く農業に取り組んできた小辻さん。IT技術の助けもあり、最近は農業全体や周りを見る余裕もできるようになりました。農業の仕組みづくりに興味を持ち始めたといいます。内側から、農業のあり方の変革に取り組み始めたのです。

 

現在取り組んでいるのは、新規就農者の支援です。グループでつながりを持って協力して農業に取り組めば、リスクとコストを抑えてチャレンジができます。やりたいことを実現するためのインフラを整えるような役割を担っていきたいといいます。

 

 

例えば、土地。実績のない新規就農者が手に入れるのは難しいです。新規就農者にとっては、どこに行けば自分の理想の農地に出会うことができるのか、事前に多面的な条件をクリアする見当をつけるのは困難です。また、実績のない人が土地を借りることにも大きな壁があります。

 

小辻さん自身も、現在借りている土地探しには、苦労したといいます。ちょうどいい面積の土地を見つけても、後から水はけが悪いことが判明する。そんなことはしょっちゅうでした。

 

いい土地は既に使われていることが多いんです。空いている土地があっても、持ち主の方に『開発がかかって高くなるかもしれないから売らない』と言われたりね。目に見えない多くの条件があるんです。そういう目に見えないものを全てわかって、新規の人がスタートするのは難しい。それが自分の就農10年のうちの最初の5年の苦労です。

 

受け入れ先になる準備が整った農業生産法人もそう多くはないため、新規就農者は始めから個人で準備をするしかありません。小さなインフラづくりに1人で取り組み、エネルギーと時間、資金を費やす。ビジネスである以上、スタートしてからはさらに課題の連続で、結果として新規就農者の中でも一部の人だけがかろうじて小さく生き残るという現実があるのです。

 

そこで、小辻さんが提案しているのが新規就農者との土地の共有。昨年設立したサツマイモ栽培の農業生産法人「みらいファーム」で、別の新規就農者と土地を共有しているのです。

 

「みらいファームの一部で土地をシェアして、一緒に畑を使いましょう」という提案をしています。もちろん地権者さんには、自分たちの責任や信用を通しての付き合いを認めてもらいながら。生産に必要なベースとしては、土地以外にも灌漑設備や機械類があります。年に何回しか使わないものなんかも沢山あるんですよね。そういうものも、「一緒に使おう」という提案をしています。

 

今までは、村単位など、それぞれの家と共同体で後継者を育てながら、農地を守り発展させてきました。しかし、地域によってはそういった担い手が激減しており、その仕組みを維持することが困難になってきています。その代わりの仕組みとして、新規就農者、地元の後継者を含めた若い世代のグループをへだてることなく、グループ単位でのインフラ整備をすることで支え、ひいては新しい地縁を築き上げながら地域を支えていきたい、というのが小辻さんの理想です。

 

安心して、しっかりといいモノをたくさん作れるメーカーとしての役割を守っていきたい、そう語る小辻さんが掲げるコンセプトは“続けていくことを楽しむ”というもの。価値観は作り手ごとに違っても構わないので、手段とインフラをゆっくりと共有しながら、お互いの価値観を尊重して続けられるモノづくりの場の創出に取り組んでいきたいといいます。

 

見えないところから地道に、少しずつ改善を続けていく小辻さん。今後やってみたいことについて伺いました。

 

夏に3ヶ月だけ高原でイチゴの苗作りをする、なんていう働き方もできるかもしれませんね。子ども達の教育を考えて、その期間だけのびのびできるところに移ってもいいし。農家がツアーしたりするのも楽しそうですよね。

 

ITを取り入れ、新しいアイデアを生み出し実現することで、ライフスタイルにも夢が膨らみます。

 

その他の記事

お問い合わせ