「データは“教科書”のようなもの」。多くの支持を集める若手農家のモニタリングシステム活用法とは

神奈川県川崎市。都心からほど近いこの地で、300年以上続く農家を継いだ、若い農家がいます。「しんぼりファーム」新堀智史さんです。小学校の頃から直売所の店頭に立ち、野菜を売ってきた“生粋”の直売農家。20歳で農場を引き継ぎ、今年で就農7年目を数えます。

そんな新堀さんの手助けになっているのがIT技術を活用した環境モニタリングシステム。温度や湿度、水分量をつぶさに教えてくれる機能は「安心につながっている」と言います。

今回はIT技術を活用し野菜を栽培する新堀さんに、「農家にとって、IT技術はどんな存在か?」をテーマにインタビューをおこないました。

 

データ活用した先輩農家からの学習

 

しんぼりファームは、江戸時代から300年以上続く農家。新堀さんで8代目となります。「人と同じ道は歩みたくない」と、新堀さんが実家を継いだのは20歳のとき。都心から電車で30分の川崎市での就農でした。

農業の専門学校でハウス栽培のおもしろさを学んだ新堀さん。もともとしんぼりファームは代々露地栽培を続けていましたが、新堀さんの代からハウス栽培を始めました。

「ハウス栽培をやりたい」と父に提案したところ、「全面的に任せる。お前の代で施設栽培を新しくやりなさい」と応援をしてくれたんです。「若いうちに設備投資をしておきなさい」というアドバイスもあったので、ハウスの新築には力を入れました。

 

 

そんな新堀さんがモニタリングシステムを導入したのは3年前のこと。ビニールハウスでトマト栽培を始めたことがきっかけでした。同じ神奈川県内の寒川町でトマト栽培を営む先輩農家のすすめで、モニタリングシステムの導入を決定。しかし、最初はデータの活用方法に苦心していたそうです。

データの重要性を理解していた一方で、温度・湿度・水分量など、トマトにとっての最適解がわからず活用できていませんでした。当たり前ですが、データだけあっても意味がありませんよね。

データはあくまでデータ。その良し悪しを判断するには、目安となる比較対象が必要でした。そこで、「おいしいトマトを育てているハウスの数値を真似するところから始めよう」と思い立ちます。

そこで、寒川の先輩農家のデータを見させていただき、真似をすることから始めました。そうすれば近づくことができるんじゃないかと考えたのです。数字でわかりやすく表示してくれるデータは、自分の目標を目指すときに真似するいい“道具”になるのではないでしょうか。

まずは真似から。“師匠”とあおぐ先輩農家に、わからないことをどんどん聞いていきました。

季節の変わり目は、設定を変更しないと一気に水が足りなくなったり、温度が高くなったりします。でも、先輩と比較することですぐに改善策を講じることができました。不明点があればすぐに電話していましたね。たまに「自分でやれ」と言われましたが(笑)、向こうから心配して電話をかけてくれることもあり、非常に心強かったです。

 

モニタリングシステムのセンサー

 

モニタリングシステムを導入して3年。基本的にデータは朝と夜に確認しています。夜に1日の数値の変化を見て、おかしなことがあったら次の日に改善策を講じるようにしていますね。

導入3年目の今では、新堀さんも教える立場に。同じシステムを導入した川崎市内の農家にデータの見方やかん水の量やタイミングなどを伝えています。

僕にとっても復習になるので、勉強になりますね。もちろんまだまだ先輩農家から学ぶこともしていますよ。 ただ、たまに電話したとき、あんまり聞きすぎると「勉強してねぇのか!」なんて言われてしまいますね(笑)。

3年前、川崎市内でモニタリングシステムを利用していたのは新堀さんただひとり。しかし、少しずつ導入者が増えるなかで、新たな農家の“輪”が形成されていきました。

 

IT農業は“教科書”と“参考書”

 

新堀さんにとって、モニタリングシステムはもはやなくてはならないものになっているようです。

異常をすぐ知らせてくれるので、安心して外出したり、他の作業をしたりすることができるようになりました。気温の上限値・下限値も設定できるので、正常な値を指定しておけば、異常温度になった際に携帯電話に警報でお知らせしてくれるんです。寝ているときでも、外出しているときでも、異常があれば携帯電話に通知が来ます。

夏にも、最高気温を設定しておけば、暑すぎるときに通知してくれるので、窓の開閉やかん水のタイミングにより注意するようになったといいます。

 

 

また、圃場の映像も確認できるため、家族とも作業を共有しやすくなりました。映像とデータを合わせて確認し、「今35度だから窓をもっと開けて」などと、具体的かつ分かりやすい指示や共有ができるようになったのです。

気候の変動が激しい季節でもスマホを開けばすぐに状態が確認できますし、異常があれば通知が来る。映像で確認することもできますし、ちょっとした外出をするときに安心です。また、データがあると私以外の家族でもトラブル時の対処が適切にできるので、省力化できているのを感じますね。

モニタリングシステムを利用して、手間が省けたという新堀さん。農業におけるIT技術は自身にとってどんな存在なのか、という問いかけにはこう答えてくれました。

数字で正直に教えてくれるデータは「間違っているよ」「こうするといいよ」と教えてくれる存在です。1人で黙々とやるよりも、失敗が少なくなっていると感じています。それから、ある意味ずっと見られているので、怠けることはできないですね(笑)。気持ちを引き締めてくれる存在でもあります。

 

 

最後に、農業がIT技術と関わっていく上で大事な心構えを聞きました。

モニタリングシステムのデータは“教科書”や“参考書”のようなものだと思っています。気候の変動や、思わぬトラブルが発生したときに、似たような事例を見比べて次の一手を打つことができる“参考書”の側面。また過去のデータを見て復習することができる“教科書”の側面です。データの役割を理解し見るべきものを見れば、効率的に農業を進めることができるのではないでしょうか。

作りたいものがあるのに、たどり着けない。そんな農家の悩みに対し、IT技術はひとつの近道を提示してくれます。「データは教科書」。ITを活用する農家が増えていくなかで、新堀さんの取り組みは「あるべき姿」のひとつになっていくのではないでしょうか。

 

 

 

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