「エクセル活用で、データの流れを掴む」イチゴ栽培に生きる、システムエンジニアの経験

群馬県では珍しいイチゴ農家の一人に、苺屋さとりの佐鳥啓介さんがいます。もともとシステムエンジニアとして働いていましたが、2014年に実家の土地でイチゴ栽培を始めました。「とちおとめ」と「やよいひめ」を栽培し、ハウスに隣接する直売所などで販売しています。

そんな佐鳥さんは、システムエンジニアの経験を生かし、データ活用だけでなく、センサーや環境制御のシステムを自作。就農4年目の今は、ミストやスプリンクラーを自動制御している佐鳥さんに、農業におけるデータ活用の極意を伺いました。

 

勘で動いていた就農1年目。作業動線の見直しがデータ蓄積へ

 

ーまずは、就農の経緯を教えてください。

もともと、大手のシステム会社やベンチャー企業で、システムエンジニアとして働いていました。データベースの構築と運用などを担当していたので、データは身近な存在でしたね。

子どもが生まれた後に、地元である群馬県高崎市に戻って働いていたのですが、ITの開発に疲れてしまったんです。そんなときに目に入ったのが、実家の畑でした。祖母がやっていた畑は、誰にも手入れされることなくほったらかし状態。「もったいないから農業をやろうかな」と考えたのがきっかけです。

ーなぜイチゴを選んだのでしょうか?

最初は数ある野菜のひとつとしてイチゴを選んでいましたが、次第にイチゴの生理のコントロールの難しさに興味をひかれました。

家のベランダでイチゴを作ってみたら難しいしおいしくないし、子どもにも文句言われるし(笑)。そこで、2012年に茨城県にある農業生産法人で修行を始めました。「農薬ではなく技術力でイチゴの質を高める」という方針の農業生産法人だったので、勉強になることが多かったですね。2年修行した後、実家に戻ってハウスや直売所を建てました。

ーイチゴ栽培を始めてみていかがでしたか。

1年目の2015年は本当に大変な年でしたね。1人でできると思っていたことが、全然できなかった。収穫・接客に追われていました。繁忙期は朝4時にハウスに来て、夜12時に帰宅、就寝は2時。そんな生活でした。だから、データやITを活用する余裕は全くありませんでしたね。苗に水を与えるときも、適量がどれぐらいなのかが分からない。勘で済ませてしまっていました。

1年目の反省を踏まえて、2年目は自分の作業の動線を見直すようにしたんですよ。仕事が思った以上に多かったので、自分の作業を見直して短縮できるようにしました。効率を追求するために考えたのが、センサーの活用です。少しずつ気温などのデータを取るようにしました。

パートさんに加入いただいたこともあり、3年目にはなんとか仕事を回せるようになりましたね。データの可能性を感じたのは、そのときです。センサーで取ったデータの見直しをして、4年目の今年には環境制御を始めました。

 

理想と現実のギャップを埋めるため、環境制御システム自作

 

ーセンサーのシステムも自作されたと伺いました。

はい。気温や湿度、二酸化炭素濃度などを計測できるセンサーを自作しました。収穫シーズンではないときには、育苗ハウスに置いています。収穫が始まったらセンサーを収穫ハウスに移動させて、ハウス内の状態を把握するために活用しています。

佐鳥さんが自作したセンサー

 

ー集めたデータは、どのように集計しているのですか。

エクセルで加工をして、自分なりにデータの見える化をしました。収量もグラフ化して、収穫の流れを見えるようにしたんです。グラフ化することで、まるで違うことが見えるようになりました。

ーデータを記録してわかったこととは?

収量と窒素の量もグラフ化して、色の濃淡で見やすく表現しました。収量が多かったときには濃い色を、少なかったときには薄い色を。多くの農家さんも収量と肥料を把握していると思うのですが、このようにエクセルで管理するだけでも発見があると思います。

 

佐鳥さんが蓄積しているデータ。色の濃淡で数字の高低を表現しているため、一目でデータを把握することが可能だ

 

ー他には、どんなデータを重要視していますか。

もちろん、光や温度など様々な要素があるので、肥料と収量のデータだけでは全てを判断することはできません。センサーで取った温度や湿度、日射のデータも突き合わせるようにしています。

温度と積算日射と飽差などを全て記録しています。これらのデータの突き合わせをして、「この数値にヒントがありそうだな」と立てた仮説をもとに、グラフを作って分析をしています。

 

 

例えば、「積算日射が重要そうだ」という仮説から作ったのがこのグラフ。日射量と収量のシュミレーションを行ないました。積算日射量は黄色い線。目標の収量は青い線。ですが現実の収量はそれを下回る赤い線。この伸び代の部分を埋められるように、日々取り組んでいます。

ー収量を伸ばすために、どのような取り組みをされていますか。

環境制御です。なるべく管理に専念して収量や味を伸ばしていきたいのですが、株の手入れやパック詰め、直売所での接客の仕事もあります。そういった仕事もやりつつ、なるべく管理に時間を取るために、環境制御を取り入れたいという考えがありますね。

ー具体的には、どのような機械を自動制御しているのでしょうか。

いま現在、冬の収穫期では二酸化炭素発生装置や潅水を、夏の育苗期ではミストとスプリンクラーを自動制御しています。センサーが計測した気温や飽差、二酸化炭素濃度などをもとに、機械の稼働時間と停止時間を設定しているのです。

例を挙げると気温が24度以上、飽差が8(g/㎥)以上12(g/㎥)以下の時は「20秒ミストを動かして、30秒停止する」というプログラムが動いています。もっと暑いとき、例えば温度が35度を超えたら、「ミストが40秒動いて20秒停止する」という動作を繰り返す。こんなふうに、気温や飽差ごとにプログラムを組んでいます。

 

佐鳥さんが自作した制御盤

 

ーミストを自動化していかがでしたか。

水の管理が正確にできるようになったので、去年まで出ていた病気がほとんど出なくなりました。

逆に、自動化すると、それまでと比較してハウスに行く頻度が減るため、イチゴの様子がわからなくなってしまうというデメリットもあります。害虫の発生を見逃してしまったことがありました。カメラの設置も検討しましたが、カメラで全てを把握できる訳ではないので、悩ましいところですね。

 

データの加工・分析に、エクセルをもっと使ってほしい

 

ー就農して4年。今年はどんなシーズンにしていきたいですか。

4年目で自分の中での農業の形がある程度見えてくるのではないかと思っています。データも蓄積してきたので、自動制御の精度を上げていくのが楽しみですね。

ーこれから、データ活用に挑戦してみたい農家さんへ、メッセージをお願いします。

エクセルは多くの農家さんが利用されていると思います。でも、エクセルは皆さんが思っているよりも、もっと幅広い活用方法があります。

データをとるだけなら、データロガーなどを活用すれば難しくありません。問題はそれをどう活用するかです。でも、その活用のやり方っていうのが、意外と知られていません。私はデータの世界にどっぷり浸かっていたので、この現状にもどかしい思いを抱いています。

まずは気温や湿度、日射など、ご自分の作物にとって重要だと思うデータを計測して、エクセルを使ってグラフ化することから始めてみてほしいですね。

計測したデータを取り出して見える化して、データの傾向や流れをつかむ。そこまでいって初めて、「データを活用できた」といえると思うんですよ。だから、エクセルは思いっきり使ってみてほしいです。

 

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