Web上での「栽培過程の見える化」で安心・安全のブランド価値向上

インターネット上で、消費者に直接契約販売ができる仕組みがあるのをご存知ですか? 「前払いでの契約栽培と自由な価格設定で、収入の安定化につながる」と、農家さんの間で広がりを見せています。会員にトマトの生育状況を写真で報告するなど、コミュニケーションも取ることが可能です。

これにより安定収入と「安心・安全」のブランド価値を高めようとしているのが、千葉県のトマト農家、大倉淳伸さんです。外資系企業に勤めていましたが、50代で就農。環境制御装置も導入し、最新鋭のハウスを駆使してトマトを栽培している 大倉さんにお話を伺いました。

 

外資系企業の技術者から農家に

 

ー外資系企業からの転身ということで、農家さんとしては珍しいタイプだと思うのですが就農されたのはいつですか?

2016年です。2017年で2年目となります。もともと農家の長男だったんですが、外資系半導体メーカーの技術者として働いていました。ですが、50代になって、地域社会に貢献できないかなと考えるようになりました。そこで出てきたのが、農業という選択肢です。

 

 

ーもともと農業をやりたかったということなのでしょうか。

就農を決めかねていた2013年の夏、千葉県にある植物工場の見学会に参加しました。千葉大学が主導している植物工場の実証実験・展示・研修設備です。太陽光利用型ではトマトを、人工光利用型ではレタスを中心に実証栽培をされています。高度な統合環境制御や養液栽培システムを見学させていただいて、「こういう農業をやりたい!」と考えるようになりました。

ー植物工場の何に魅力を感じましたか?

工業製品の生産技術出身者である自分からすれば、「生産物は制御されていて当たり前」の認識があったのだと思います。その意識にぴったりだったんでしょうね。初めての見学の後、半年間掛けて行われた、植物工場の勉強会にも参加させていただきました。

ー学ぶ内容は。

植物工場について、一連の内容を勉強することができました。環境制御やヒートポンプなど、植物工場の基礎知識、植物生理、経営まで、学ぶ分野は多岐に渡ります。実習として、養液栽培でトマトも育てましたよ。最先端の内容を、大学教授の先生方から直接学ぶことができて、大変勉強になりましたね。

ーその後、就農されたのでしょうか?

はい。2015年の8月には会社を退職しました。その1年後、退職金を利用して実家の敷地にトマトのハウスを建てたのです。

 

環境制御には、植物生理の知識が大前提

 

ーそれが、こちらのハウスですね。

環境制御装置を利用しています。温度・湿度・二酸化炭素濃度などをグラフで見える化して、パソコン上からも確認・遠隔制御ができるんですよ。

 

 

ー普段、どんなデータを見ていますか。

特に収量との関係が大きいデータが、二酸化炭素です。500ppm以上に保っています。冬場に閉めっぱなしだと、220〜230ppmまで下がってしまうこともありました。二酸化炭素の濃度は収量に比例していますね。

ー特に重視しているデータは何でしょうか。

トマトの生育では、積算温度が重要です。うちの場合は、苗から開花するまでは420℃/日、2段目の収穫開始から3段目の収穫開始までの間は210℃/日となるように管理をしています。1日の中でも、植物の生理にあわせ、時間によって設定温度を変える変温管理をすることが大切です。温度制御をすることで栽培計画ができていますね。

管理という意味では、細霧冷房も導入しています。水分濃度が一定以下になったら、ミストを出して、水分濃度を一定の水準で管理できるというものです。

ー環境制御を導入したからこそ、できていることはありますか。

僕の場合、自宅と実家の圃場が40キロと離れています。制御をしているおかげで、片道40キロ、毎日安心して通勤できています。

ーご自宅と圃場が離れていて、不便ではありませんか?

圃場は、僕の中では「職場」なんですよ。普通は、天候や時間によってハウスの開閉をしなければいけないので、家のすぐそばで働く必要があるんですよね。

ーご自宅と離れた場所でお仕事をする上で、環境制御という選択が出てきたのでしょうか。

遠隔制御は、何よりも必要条件でしたね。ある程度安心して任せられるというのが大きかったです。もちろん、環境制御を導入するには、植物生理の知識が大前提です。環境制御ができたからといって、収量は上がりません。生育と環境制御の両方がしっかりできているからこそ、収量が上がるんですよね。

 

 

ー環境制御装置はあくまでもツールということでしょうか?

そうですね。例えば、摘葉は環境制御ではできません。全体の採光性を考えて、葉を間引きして、ベストな受光量にする。これはやはり人が行う必要があります。

ー機械だけでは適切にできない部分ですね。

栽培に関しては「植物生理をどれだけ理解しているか」が最も大事です。ですが、環境制御を入れれば、省人力化や、天候の変化による植物のストレスの緩和など、人間ができることは増える。

環境制御のメリットとしては、作業者の方の働きやすさも大きいと思います。作業環境が良いんです。服も汚れないし、比較的涼しい。スタッフさんも、植物が育っていく姿を見て、楽しんでやっています。僕が進めている「新しい農業」に共感して手伝ってくださっていると思います。

 

大倉農園のトマトの培地。極少量培地で糖度を高める。軽量のため、定植・片付けも省力化できたという。

 

Web販売による「栽培過程の見える化」で安定収益に

 

ー2017年には、インターネット上の契約栽培サービスも始めたと伺いました。インターネット上で会員と直接契約して、作物を販売できる仕組みだそうですね。

はい。インターネット上で契約を結んで、直接販売をしています。週に1回、全国のユーザーさんにトマトの生育状況を写真で報告しています。コミュニケーションも活発ですよ。

 

生育の様子を発信するために、スマートフォンで撮影をする大倉さん

 

ー実際に寄せられた感想は?

ユーザーの方は、まず楽しんでいらっしゃいますね。生育の報告をして、その後「こんなに大きくなったんだ」「生育早いですね」なんていう感想がきます。「蜂が来て受粉するんだ」「花はこんなふうになっているんだ」など、多くの新鮮な発見があるようです。僕も人に楽しみを与えているのが嬉しい。

これは、コト消費(モノではなく体験・経験を提供するサービス)だと思っています。コト消費を通じてユーザーさんに楽しんでいただいて、自分自身も楽しみにできて、それが安定収益につながっているという、良い循環ができつつあります。

ーこのサービスを導入された理由を教えてください。

安心・安全についての問題意識をもともと持っていたんです。農作物の場合、どういう人がどのように作っているのか、分かりづらいですよね。栽培の過程を消費者に見せることで、「安心・安全」につながるんじゃないかと考えて導入しました。

栽培を多くの人に知っていただきたいという思いも大きかったですね。コト消費を通じて消費者とつながりたかったんです。

 

 

ーどんなお客様が多いのでしょうか。

生育を知りたい方、農業に興味がある方、農作物に対して感度の高い方ですかね。これが究極の「見える化」ですよね。栽培の最初から最後までを写真お見せしているので、適当なことはできません。インターネットでの栽培契約サービスは、安心・安全の新たな手法といえるのではないでしょうか。発信することで、安心・安全のブランド価値を高めていければと思っています。

ー今後、このサービスを通してやっていきたいことはありますか?

最近は、出荷するトマトに貼るラベルシールにQRコードを貼って、販売契約サービスを知ってもらえるようにしています。宣伝にもなりますし、差別化につながると考えています。「見える化を通して安心・安全を提供している農家」というブランドを作っていきたいです。

 

大倉農園のラベルシール。

 

お話を伺っていて、大倉さんが作物やスタッフさんを大切にされている想いが伝わってきました。そんな大倉さんが誠実に発信するからこそ、消費者も作物の成長を楽しみにできるのでしょう。「安心・安全」の大倉農園のブランド価値が、多くの人に知られるのも遠い日ではないと感じました。

 

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