「未来型の農業」を実現するにはITが必要だった―できる.agriセミナー第1回レポート

11月8日、できる.agri初となる農業×ITセミナーを茨城県で開催しました! 今回は「生産と流通編」と題して、トークセッションとワークショップを開催。IT化に取り組んでいる農家として事例を紹介してくださったのは、茨城県鉾田市でイチゴを栽培する村田農園さん、東京都西東京市のやすだ農園さんの2組。できる.agri実行委員会からは、潅水・施肥の自動化装置「ゼロアグリ」を提供する株式会社ルートレック・ネットワークス、初期費用・月額費用が無料のネットショップ作成サービス「BASE」の2社が登壇しました。

村田農園は、茨城県のイチゴ栽培平均収穫量に対して2倍強の収穫量を誇り、有名ホテルやパティシエからの引き合いが途絶えない、茨城県内でも有名な存在です。今回のセミナーでは、代表の村田和寿さんより潅水・施肥のIT装置の実証実験をいち早く行うなどの経験を元にした生産領域に関するお話をいただきました。

できる.agriでも取材記事を掲載した、やすだ農園を営む安田加奈子さんは、幼稚園教諭を経て結婚を機に農家に。約100年続く畑を受け継ぎ、年間約50種類の野菜を栽培しています。販路やファン作りにおけるIT活用について、課題感を交えてお話しいただきました。

今回の記事では、村田農園村田さんからのお話を中心にセミナー当日の様子を紹介します。

 

村田農園が目指す「未来型の農業」

 

トークセッションで最初に登壇したのは、村田農園の村田さんとルートレック・ネットワークスの時津博直さん。村田さんは農園の3代目、長男として「継がなければいけない」という環境のもと、必然的に実家の農業に関わっていくことになりました。父親の代まではメロンが中心の施設園芸でしたが、今は収益性が見込めるイチゴに特化しています。

村田さんが最初、農業に抱いていたイメージは「お金にならない」「忙しい」「汚い」の3つでした。両親が頑張っているのを隣で見ていて、そんな農業のあり方をどうにか変えたいという想いがあったそうです。しかし新しいことに挑戦していきたい村田さんは、保守的な父親とぶつかることに。その結果経営権を譲り受けたた村田さんでしたが、いざ自分でやってみると大失敗。

売り込みに来た業者さんなどの話をうのみにして取り組んだところ、美味しくないイチゴができてしまった。ハウスの変更とともに与える肥料を変えたところ、家の土に合わない肥料を導入してしまい、元気な根を張れなくなる状況ができてしまったのだそうです。

父親に一言「選んだお前(和寿さん)の責任、言われたことを全て信じてはダメ」と言われました。「俺って浅はかだな」という気持ちになりましたね(村田さん)

 

村田和寿さん

 

試行錯誤しながら「本当にお客さんが喜んでくれる」イチゴの美味しさを追求する中で、村田さんが「未来型の農業」として検討していたのが“ITの活用”です。村田さんが考える未来型の農業とは、忙しいや重労働といった農業のイメージをITの力で変えることにより、就きたいと思ってもらえる仕事にすること。その過程で出会ったのが、養液土耕システム「ゼロアグリ」でした。

農業って机の上では、できないじゃないですか。土の状態が数値で分かると言われても、そんなもの現場では頼りにならないだろうと思っていました。でも、もし失敗してもいいから未来型の農業を勉強しようと導入したんです。導入後一緒に収量調査まで行ったら良い結果が出たので、だまされてはいないなと安心しました(笑)(村田さん)

村田さんに機器の紹介をしたルートレック・ネットワークスの時津さんは、当時のことをこう語りました。

村田農園にゼロアグリを導入してみると、村田さんが目で判断している管理方法は本当に正確なことが分かりました。美味しいイチゴが栽培できている理由が分かりましたね。私たちとして嬉しかったのは、村田さんのイチゴとほぼ同じ品質のものが、ゼロアグリ導入1年目に栽培できたことです(時津さん)

村田さんがゼロアグリ導入の効果として挙げたのは、目で見えないものを数値化してくれること。例えばイチゴは水の管理1つで味に影響があるため、潅水は出荷を終えてから行います。そのため潅水は4日に1度のペースでしたが、ゼロアグリにより水分の吸い上げが多いことが分かりました。その結果、毎日潅水を行わなければいけないことを学んだそう。

また、村田農園のイチゴでは元肥の他に液肥を追肥していましたが、今までは勘で作業していたため「液肥を流しすぎている」感覚があったといいます。これはゼロアグリを導入したことで、必要となる肥料の量を分析できたため、肥料にかかる費用が10分の1になったそうです。他にも、遠隔地からでも作物の状態が分かるなどの利点を挙げていました。

村田さんの栽培方法から、私たちが教えていただいたこともあります。実はそのノウハウはゼロアグリのシステムに反映されており、他の農家さんはその恩恵を受けられます。皆の知識を集めて、皆で高めあえるのがITの仕組みの良さだと思っています(時津さん)

 

時津博直さん

 

最後に、村田さんは挑戦し続けることの大切さについてメッセージを残してくれました。

今のままでは、次の世代が継いでくれる農業経営ができないと思っています。まだ自分の息子や娘に継がせたい農家は少ないです。そうではなく、茨城県という恵まれた環境で農業ができること、楽しい体験がたくさんできることを伝えていきたいです。今でも小中学校に訪問して、農業の良さを伝える活動を続けています(村田さん)

 

これから必要になるのは「信頼残高」

 

次に登壇したのは、やすだ農園の安田加奈子さんとBASEの前田崇之さん。やすだ農園の特徴は、独自の販路作り。栽培した野菜をほとんど市場には出さず、A品は直接取引できる販路が中心といいます。B品や余りに関しては畑に併設した直売所で売ることで、これまで処分されていた野菜が喜んで買ってもらえるようになったそうです。

直売所の魅力が少しでも伝わればと思い、Facebookページを始めました。野菜だけでなく、猫や虫など四季を感じられる写真を投稿することで、見てくれる方が増えた気がします。より多くの人に知ってもらうために、InstagramとBASEの活用も始めましたね(安田さん)

前田さんによると、BASEを活用している農家のアカウント数は確認できているだけでも3000以上(2017年11月現在)。しかし売り上げにつながっている農家はまだ少なく、苦労されている方も多いようです。これまで農協や市場、卸売りが中心だった農家が直接お客さんに売るとなったときに、梱包や商品のラインアップの仕方などでつまづくことが多いからといいます。

 

安田加奈子さん(左)と前田崇之さん(右)

 

成功している農家の特徴として、前田さんは「販売の仕方」と「リアルの場の活用」に言及しました。販売の仕方としては、BASEでセット品の販売が増えたことに加えて、市場で取り扱えないB品をあえて前面に出すなどの事例を挙げます。“形が悪い、サイズも小さいけれど、味は変わらず安い”といった情報発信を、いかにうまくできるかがポイントとのこと。

もう1つのリアルの場の活用について、前田さんは“信頼残高”の重要性を語ります。

通販の最近の傾向を見ていると、インターネットの買い物は「金額」と「品質」の情報だけでは買われなくなっています。そこには必ず、信頼残高がついてきます。信頼残高とは、簡単に言うと“買うときに、高い納得感が得られるか”ということだと思います。

野菜の場合は、マルシェなどのリアルの場で作り手や実際の野菜に触れてもらうことで、“この農家が良い”という体験につなげることになるでしょう。リアルの場から、BASEにもう一度帰ってきてもらう流れを作れている農家は成功しています。このようにリアルな場を活用しながら情報発信を行っている良い事例が、やすだ農園さんですね(前田さん)

※やすだ農園さんの具体的な取り組みは、できる.agriに掲載した記事をご覧ください。

 

<ワークショップ・懇親会の様子>

 

 

 

 

できる.agriではITを活用した農業の新しい姿を届けるため、今後も全国各地でセミナーを開催していく予定です。開催予定については、このWebサイトやFacebookページなどでお知らせしますので、ぜひ引き続きご覧ください!

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