ITで農業は「エンタメ」にもなる −−パーシテックがスマートグラスで広げる“景色”

「ITを利用することでマネタイズのチャネルが増える。1次産業が縮小するなかで、農家はもっと“儲け”にシビアにならなくてはいけません。」

こう話すのは、京都でIT企業・パーシテックを経営する水尾学さん。水尾さんは、同社で農業IT機器「スマートグラス」と遠隔システムを普及する一方、滋賀県高島市で自らが運営する農園「柿のミズオ」で先駆的にIT技術を導入しています。IT企業と農園、同時に営むことで相乗効果を生み、各方面で注目を集めているのです。

農業を「食える」産業にするために、水尾さんが提唱するのは農業の「エンタメ化」。同社は「スマートグラス」と遠隔システムを用い、“疑似収穫体験”を企画しているのだとか。

農業界全体のために、ITを導入した先進的な取り組みを続ける水尾さんに、就農の経緯や、ITツール導入事例、今後取り組みたいことについてお話を伺いました。

農業に使えるIT技術はたくさんある

−水尾さんは異業種から実家の農家を継承されたとのことですが、前職ではどのような仕事をされていたのでしょうか?

就農までは30年ほど、電子機器開発に携わっていました。半導体を使った開発が身近にあり、テクノロジーやITの最先端をずっと近くで見ていたんです。

−テクノロジーの最先端ですね。そこからなぜ農園を継ごうと思ったのでしょうか?

最先端の現場で働く喜びを感じつつ、実家が農家であることは常に頭の片隅にあって。私もいずれ、農園を継がなければいけないなと思っていました。また、最先端の現場で働いていたからこそ、農業に落とし込めるIT技術がたくさんあることを感じていたんです。自分が農園を継承する際はITを用い、新しい取り組みに挑戦しようと思っていました。

−具体的に、どのような取り組みを計画していたのでしょうか。

農業における「継承問題」の解決です。

−継承問題?

現在、就農を考えている若者は数多くいます。しかし、先代の加齢に伴う身体の不調により、伝承がスムーズに行えない事例が数多くあったんです。会社を辞め就農を決断した私と父もその1例。全国どこでも名産地はあり、長年受け継がれた独自のノウハウがあります。しかし、教える人がいない。すごくもったいないことですよね。

高齢者でも簡単に技術継承がおこなえるツールを作成しなければならない。模索の結果、たどり着いたのが、「スマートグラス」でした。

父の「名人芸」も再現

−スマートグラスは、どのように「継承問題」を解決するのでしょうか?

「スマートグラス」はメガネに内臓されたカメラに情報を投影、自らの視界をパソコンの画面に転送することができます。

現在パソコンに柿農園の映像が流れていますが、スマートグラスで見えている視界が転送されてきているんです。農園に出向くことのできない高齢者は、通話を通じてパソコンの画面を見ながら遠隔で支持をおこなうことができます。画面を直接マーキングすることで、子細な指示も可能です。

−なるほど。しかし、スマートグラス導入時お父様は80歳を超えていました。IT技術を導入することに、戸惑いは無かったのでしょうか?

最初は少し手間取っていましたが、すぐに慣れてくれました。残す蕾や果実の選定や柿を摘むタイミング…。「名人」と呼ばれた父でないと判断できない基準を、スマートグラスを通じて会得することができる。いまでは父も使用することで自慢の味を後世に残せると意気込んでくれています。いまでは、「現役期間が伸び、生き甲斐にもつながる」とまで言ってくれるようになりました。

−それは嬉しい反応ですね!

他にも、外国人ワーカーを短期雇用するときにスマートグラスが期待されています。収穫前に数日かけてレクチャーをしていたものが、スマートグラスによるマーキングでマーキング指示をすることで、短時間で収得出来るようになります。

また、現場に立たない非生産者の方とのコミュニケーションにも有用です。例えば、圃場の作物が病気の被害を受けた場合、これまでは農業組織の専門担当が農園へ足を運部必要があります。しかし、スマートグラスがあれば事前共有が可能。原因・対策の絞り込みが容易になり、複数回現場を訪れることも減ります。

スマートグラスで「バーチャル収穫体験」

−今後のスマートグラス活用への展望を教えてください。

現在計画していることに、「遠隔の果物狩り」があります。スマートグラスをつけ、果物狩りを遠隔でおこなうことで、映像でお客さんの好きなものが取れるものです。文字通り、いつでもどこでも収穫できる。

都会の子供にとって、お店でしか見たことない果物の収穫体験ができるのは貴重な体験。デパートの物産展など、様々な施設で展開できることが考えられます。あの場に体験イベントが入ることでもっと盛り上げることができるのではないでしょうか。

−これまでIT×農業では作業の「効率化」が目立ってきましたが、エンタメとしての活用法もあるんですね!

近年、農家によるIT活用が取り上げられるようになりました。しかし、多くの農家は「時間を減らしたい」「手間を減らしたい」といった効率化を狙った利用が多い。しかし、ITによって得られる恩恵は効率化だけではありません。私は、IT利用でより儲かった事例を提示していきたい。そして、得られた利潤で設備投資ができる。いい循環も起こすことができます。

−効率化だけではない、ITのさらなる可能性を感じるお話ですね。最後に、今後IT技術を導入するかたへのメッセージをお願いいたします。

ケーブルが多くて邪魔だったり、どのボタンを押していいかわからなかったり…。ITツールって、最初は訳わかんないと思うんですよ。しかし、経験を積むことで、確実に視座が上がります。農作業だけでなく、広い視野で農業を捉えることができるようになる。ぜひ使って、ITで広がる“景色”を見てほしい。

−ITで広がる“景色”。

現在、僕はドローンを使用し、農場を飛んでいる映像を撮影しています。これは農場の様子を効率的に把握できるのですが、地域のプロモーション動画として使うという副次的な効果を持っていることがわかりました。同様にITツールであるスマートグラス、遠隔システムを用いて技能伝承を始めたことで応用として「遠隔くだもの狩り」を考案。生産者からサービス提供者の可能性が見えて来ました。このようにITは、他業種に転用できる可能性を持っているんです。

様々な業界の垣根がなくなりつつある現代。ぜひ、ポートフォリオを増やすために、試験的導入からでも使ってみてはいかがでしょうか。

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