異業種からの“Uターン就農者”、データを駆使し仲間とともに新たな農業の地平へ

“Fast alone, Far together”
1人でいると物事が早く進み、誰かと一緒に行動すると相乗効果で思わぬ世界までたどり着けることを表現した、アフリカのことわざです。

IT農業は、なにかと“Fast alone”の文脈が強調されがち。モニタリングシステムや自動水やりシステムなど、ITが置き換わることで効率化・時間短縮が促進される側面が目立ちます。それは決して間違いではありません。

しかし1人ですぐやることだけではなく、他者と共有できるものを持つことで農家同士のつながりを生み、相乗効果につなげたのがトマト農園「窪田の野菜」を経営する窪田拓也さん。

彼は、8年前に異業種から実家の農家を継いだ“Uターン就農者”。モニタリングシステムから得たデータを農家間で共有しアドバイスを送り合うことで、加速度的な成長を実感しています。

今回はそんな窪田さんに、ITツールを通じてどんなつながりが発生したのか、IT農業の導入を考えている就農者へのメッセージを伺いました。

 

農業に新たな視点をもたらす“Uターン就農者”の強み

 

 

ー窪田さんは農家の出身ながら、ファーストキャリアは異業種を経験されていますよね。元々、あまり農家を継ぐ気はなかったのでしょうか。

子どものころは農家を継ぐ気はありませんでした。親も自由に勉強させてくれたので、普通科の高校へ行き、工業系の学校へ進学しました。新卒で神奈川県内の工場に就職し、開発部の実験科に配属されたのですが、重機やトラックの実験をモニタリングし、データとにらめっこする毎日でしたね。

ー就農前から「データ」を扱う仕事をしていたんですね。

工場で働いていたころに培った、データの機微を察知する“くせ”はモニタリングシステムを使用している今にも生きています。工場にいたころはデータの本質を理解できず「やらされる」仕事に不満を感じていました。しかし、独立し主体的にデータを取るようになってから、データの重要性を実感しています。

ーそもそも、なぜUターンして就農しようと思ったのでしょうか。

Uターンの決め手は土地の安さです。結婚後、家を建てることを考えたときに神奈川県より太田市に帰った方が土地代が浮くな、と。農業はUターンのついでにやってみようかな程度でした(笑)。でも、結果的にやってよかったと感じています。

農業系の大学で勉強した人の話を聞いて、自分のキャリアに引け目を感じることもあります。ですが、自分が工場で働いてきた経験が農業に活きることもある。自分のやり方で、地元の農業を盛り上げていきたいと思っています。

ー最近増えている“Uターン就農者”ですが、異業種を経験したからこその強みはなんでしょうか。

既存の考え方に縛られず、多角的な視点から農業を捉えられることではないでしょうか。僕の仲間にも大手広告代理店に勤めていた“Uターン就農者”がいます。彼は前職で培った広告やマーケティングの知識を活かして、市場や農協を巻き込んだ認知度向上の動きを作ろうとしているんです。就農しても前職の分野を生かして戦えるのは、Uターン就農の魅力の1つと言えます。

 

雪害で借金。「藁にもすがる思い」で導入したモニタリングシステム

 

ー就農時からデータに強みを持っていた窪田さんですが、初めからモニタリングシステムを導入していたのでしょうか。

いえ、初めは導入していませんでした。導入のきっかけになったのは3年前。うちは元々ナス農園だったのですが、雪害でナスがダメになってしまったんです。借金を抱えた状況で、立て直しを図るタイミングでなんとなく思いついたのが群馬県から生まれたフルーツトマト・ブリックスナインでした。

 

 

ーハウス栽培をはじめるのと同時に、モニタリングシステムを導入したんですね。

ブリックスナインは通常のフルーツトマトより糖度の高い品種です。糖度をあげるには、ギリギリまで水を与えないことが肝要。かといって、水を与えないままでいると収量は上がりません。バランスが難しい。少しでも生産性を上げることができればと思い、藁にもすがる思いで導入しました。

ーモニタリングシステムを導入した結果はいかがでしたか?

かなり効率が上がっていると実感しています。人間の感覚では理解できない環境の変化を明確な数字やグラフで教えてくれるので、動き出しの速さが段違いです。しかもスマートフォンで確認ができるのが便利ですよね。もうちょっと投資できれば自動で窓の開閉をするシステムも導入できるのですが、まだ手を出していません。

ー窓の開閉を自動化される予定はないのでしょうか。

いまのところハウスが1棟だけなので、自動化するより自分でやった方がコストが少ないと判断しています。まぁ、僕が自分で開け閉めするのに慣れてしまったのが一番大きいんですけど(笑)。これから規模を拡大して行くとともに、導入するかもしれません。

 

1年で5年分の成長。データがもたらした仲間との互助

 

ー周囲で、モニタリングシステムを導入している農家さんは他にもいらっしゃるのでしょうか。

同年代の農家が数軒、導入しています。みんな同じブリックスナインの農家なので、数値の違いを見せ合い、アドバイスしあっています。

 

 

ーそれは心強いですね。

例えば、同じトマトを同じように作っているはずなのに、1軒だけ病気や欠乏症になってしまうことがあります。その原因を探るためにみんなで知見を出し合い、改善できると知識を深めることができる。自分にとってのアクシデントでないにも関わらず、経験値を得ることができます。失敗から学ぶだけでなく、上手な農家のノウハウをつまみ食いすることもできるのもいいところですね。

農業は本来、「年に1回」しかチャンスがないもの。しかし、5人が集まり経験やノウハウを共有し合うことで5年分の経験値を得ることができます。

ー加速度的に成長できますね。

収穫前の段階は時間にゆとりがあるため、チャットのグループで困ったことを吐露するとみんなが集まって農場の状態を見てくれるんです。「温度が低いから根っこが動いてないんじゃない?」とか「肥料を変えてみたら?」とか。みんなで原因を見つけて前に進めるのは楽しいですし、多角的な視点から意見がもらえるので勉強になります。収穫時期になってくると忙しくて、既読スルーされてしまうんですけど(笑)。

 

ITは、先代の“勘”を形に残す

 

ー窪田さんの今後の展望を教えてください。

いずれハウスを増やしていきたいと思っています。ですが、いまはブリックスナインの値段が下落していて、ハウスを拡大するにはリスクの高い状況と言わざるを得ません。いまのままの規模で管理を徹底し収量を増やすのか、規模を拡大するのか、考え中です。

ーなるほど…。最後に、窪田さんからITの導入を迷っている人へメッセージがあれば、お聞きしたいです。

もし導入を悩んでいるとしたら、入れてしまった方がいいですよ。「もっと軌道にのったら」とか「儲かったら」とか、悩む気持ちはわかるんですけど、悩んでいるうちに新しい機種が出たらどんどん間延びしちゃうじゃないですか。何より、導入していない間のデータが取れていないというだけで損です。迷っている人は、早めに親の説得をしてしまいましょう(笑)。

ーやはり、親世代の説得は大きな壁ですか。

そう思います。ですが、親世代は実績が出ることを知ると、意外と簡単に導入を許してくれます。うまくプレゼンすれば大丈夫。

親世代の人たちが、数十年掛けて培ってきた技術と勘を、同じく数十年掛けて習得しているようでは、時代から完全に取り残されてしまう。今はもうそういう時代です。先代の知識・ノウハウを、数値化して残すことで、彼らの経験をデータで裏付け・再現ができるようになりました。スムーズな技術の継承に役立っていると思います。僕たちのような若い世代が、親世代の技術に数年で到達することができる。こんなシステムをうまく使わない手はないですよね。

先代の知識・ノウハウを短期間で習得し、次のステップへ進む。ITは、その大きな助けとして利用する必要があると、強く実感しています。

 

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