IT農業は従来の「限界」を超える手段-明治から続くトマト農家の環境制御システム活用術

千葉県長生郡で明治時代から続く農家に生まれた、石井理永蔵さん。東京農業大学を卒業後、アメリカでの農業研修を経て、現在はトマトの長段栽培を行なっています。

7年前からは、環境モニタリングシステムや制御システムを導入。見える化・自動化を進め、従来の「常識」では難しいとされていた反収30トンを初年度から達成しました。

今回は、就農のきっかけやシステム導入の効果、見える化・自動化にあたって大切なポイントについてお話しいただきました。

 

明治から続く農家に生まれ、トマトの長段栽培で独立

 

ーまずは就農の背景を教えてていただけますか。

私は明治時代から一宮町(千葉県長生郡)で続く農家に生まれ、祖父も父も農業をしていました。そのため幼い頃から自然と、農家を継ごうと意識していました。小学生の頃は将来の夢に「日本一の農家になる」と書いていましたね。

大学は東京農業大学に進学し、卒業後は農業研修を受けるためアメリカに1年ほどいっていました。そこでは農業の実践を学ぶとともに、精神面も鍛えられましたね。

―精神面も。どのような研修だったのですか?

仲介団体を介してアメリカ各地に配属される仕組みで、私が配属されたのはカリフォルニア州・サンディエゴでした。暑さや乾燥による過酷な環境に加え労働時間も長く、メキシコ人と働くためスペイン語で話す必要があります。慣れない環境で、言語の勉強もしながらの研修だったんです。

本格的に就農したのは、10年前。はじめは父と一緒に行なっていましたが、独立してやってみたいと考え、自分のグリーンハウスを建てました。今は父と経営を分けています。

 

7年前に環境モニタリング・制御システムを導入

 

 

ートマトの栽培において、どのようなことが重要と考えていますか。

光合成の三大要素の一つである光です。今までの日本の農業は、土を重点的に見ることが多かったのですが、光の与え方が最も重要なんです。光・水・二酸化炭素を効率的にトマトに与え、太陽光を最大限利用するため、7年前に環境制御システムを導入しました。

ーどのようなきっかけで、環境制御システムを導入したのでしょうか。

当時、長生エリアの青年部で全国さまざまな農業現場を視察しました。その際に、環境制御による見える化の重要性に気づいたことがきっかけです。トマトの単収は25トン/反ほどが限度。しかし、視察の際に出会った農家は30トン/反を実現していたのです。

武田塾(青年部)では今も勉強会を週に1回開催していて、長段栽培に特化した環境制御の技術を学んだり、データを分析したり、大学教授の講義を受けたりしています。

筑波大学の池田英男教授から受けている講義では、生物生理学など植物の基礎的な知識から学んでいて。ほかにもメーカーさんや、農業改良センターの方など、さまざまな方から学んでいますね。環境制御にあたり、植物生理の基礎知識は欠かせないと考えています。

ー他の地域の農業現場を知ることで、他にどのような学びがありましたか。

細かい作業のやり方や、環境制御でどの点を重点的に見ているか、という点は特に勉強になりますね。1日の中でも湿度や温度、CO2、日射などさまざまな観点があります。そのため環境モニタリングデータは、いつもスマートフォンで確認をしています。

 

 

ー環境制御は、具体的にどのようにしているのでしょうか。

トマトの光飽和点である7万ルクスにできるだけ近づけるようにしています。二酸化炭素の濃度は光合成をしているときで、700〜800ppmくらいあると理想といわれています。外気の二酸化炭素濃度は400ppmなので、この数値は高濃度です。とくに冬は日射が足りない分、二酸化炭素を多く補うことで、糖をよりたくさん作らせることが重要。言わば二酸化炭素は見えない肥料なんです。

トマトを植物生産工場として捉えると、光合成の”原料”がないと実を作ることができないんです。植物生理を理解し、足りない原料を環境制御で補っていくことが大切です。

 

 

「見える化」と「自動化」はセットで考える

 

ー環境制御システムを導入して、どのような変化がありましたか。

最適な環境を作ることができるので、品質が良くなりましたね。栄養成長と生殖成長のバランスがうまくとれるようになりました。栄養成長というのはトマトの葉や茎.根などの”体”を作る部分で、生殖成長というのは”花や実”を大きくするというイメージです。

また、見える化・自動化を推進したことで、栽植本数や生育のスピードが早くなったり、収量が上がったりするため、作業の手が回らなくなってしまいました(笑)。

―IT農業を推進したことで、逆に人手が足りなくなるくらいうまくいったということですね。

はい。そこで、パートさんの働き方についても、効率化を追求しています。今は作業スピードの基準表を作っており、スピードに合わせて時給・待遇にランクを設けています。忙しい時期だけ請負契約で手伝ってもらう方もいて、収穫1コンテナあたりいくらなど、時給ではない働き方も導入しています。

ー環境モニタリングシステムの導入を考えている方に、何かアドバイスはありますか。

IT農業による規模拡大はスケールメリットが出せるため、必要なことだと感じます。農業の見える化をするなら、「見える化」と「自動化」はセットで考えた方がいいかなと。たとえば天窓をあける作業は数値を見て、開けたいタイミングがわかってくると思います。そのときに手動だとハウス内環境の変化に追いつかないので、自動化も一緒に考えることをオススメします。

―ありがとうございます。最後に、今後の展開について教えてください。

今後の目標としては、まずは収量を一反歩(300坪)あたり40トン目指してやっていきます。それが達成できるようになったら、規模拡大や違う品種・作物への挑戦もしてみたいですね。

 


 

植物生理の知識に基づき、しっかりと植物に向き合う石井さんの姿勢が印象的だった今回の取材。環境モニタリングや制御システムを導入したことで、逆に「手が回らなくなった」という事実も経験者だからこその発見です。

IT導入をすることで収穫サイクルや収量など、さまざまな面が効率化されると同時に、働き方の変革も必要になってくるでしょう。

 

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