IT農業なら味だけでなく“情報”も届けられる 。インターネットを駆使したブランド戦略で月1000万円を売り上げた百姓隊

宮崎県に、ひときわ注目を集める農業生産法人があります。地域食文化や風土に根ざした伝統野菜を守り伝える「百姓隊」です。20代の生産者が中心となり立ち上がった彼らは、野菜の生産から加工、販売までを一貫して行っています。

全国ネットのテレビ番組でも紹介されるなど、まさに「生産者のブランド化」における成功事例といえる彼らですが、その道のりは決して順風満帆だったわけではありません。

「野菜だけを作っていれば良い時代は終わった。これからは目立たないとダメ」と語る、百姓隊代表取締役の谷口寛俊さんと、実際に百姓隊を通じてブランド化に成功した「福じいさんの野菜」で生産を担当する福重太陽さんにお話を伺いました。

 

消費者が欲しいのは味と“情報”

 

百姓隊が“消費者に近い直売所”を目指して立ち上がったのは2001年のこと。食の安全に注目が高まる中、全国で地産地消運動が盛んになり新しく農業を始める人が増えたタイミングでした。業界全体への注目度が高まる一方で、限りある地域内顧客の奪い合いは農家同士による足の引っ張りあいや、どこかが売れると別の農家が売れないといった新たな課題を呼ぶ結果となってしまったといいます。

そんな折、谷口さんは宮崎県の農林水産部に相談をしますが、その中で起きたこんなやり取りにハッとさせられたと語ります。

「今までは売れていたのに、最近は売れなくなってきて……。どうしたら良いんでしょうか?」と言ったら、「お前はアホか」とめっちゃ怒られたんです。さらに、紹介を受けた産業支援財団という団体に行ってみたら「百姓隊というカッコいい名前は付けてるけど知名度はあるの?」と言われ、言葉を失ったのです。

担当者の言葉に大きな衝撃を受けた谷口さんは、県のサポートを受けながら「知られるため」にインターネットを活用したブランディング戦略に取り組むことを決意しました。「百姓隊」というネーミングを最大限活かしたブランドづくりの最初に取り組んだのは、ホームページでの発信をより効果的なものにするビジュアル撮影でした。

 

百姓隊のメインビジュアル写真

 

朝5時に集められて撮影したビジュアル写真制作に始まったブランド戦略。最初は手探りかつ半信半疑の中進めていた谷口さんですが、徐々にその効果を実感していくことになります。

最初は「頭がおかしくなった」とか周囲に言われて、マスコミも関心を持ちませんでした。でも少し話題になり始めたら、手のひらを返したように取材がきて……。だんだん知名度が上がって、Amazonの「野菜セット」カテゴリーでも1年半くらい1位を獲得していました。インターネット販売だけで、月に1000万円の売り上げが出た時期もありました。

最近ではインターネット販売に取り組む農家も珍しくなくなってきたものの、月に1000万円という売り上げはとてもインパクトのある数字。それはAmazonから「何でこんなに売れるのか?」と聞かれるほどだったといいます。

その要因について、谷口さんはこのように語ります。

農業でインターネット販売を行っているのは、ほとんどが業者さん。百姓隊のように生産者が直接、販売するケースは多くないです。僕らは、農家目線で「作り方」とか「思い」を発信していました。東日本大震災以降は放射能の問題もあって、消費者は味だけでなく情報も欲しい。業者さんは実際に作っていないから分からなくて、差別化の方法としても送料半額ぐらいしかできないんですよね。

 

百姓隊という出口が、売上増加につながった

 

宮崎県綾町で「福じいさんの野菜」というブランドを家族で展開する福重太陽さんも、そんな百姓隊のブランド戦略の効果を実感しているひとりでした。

有機農業が盛んな町として知られる綾町。そこで農業を営む福重さん一家も、例に漏れず有機農業による生産に力を入れています。現在、町中のスーパーや直売所で特に存在感を発揮している「福じいさんの野菜」でしたが、ここまで知名度を上げることができたのは百姓隊に参加したことが大きいといいます。

 

 

父が綾町に移住して、兄も一緒に取り組むことになって。私は後から参加したんですが、最初はもちろんそこまで知っていただけていたわけではないんです。百姓隊を通じてネットで情報発信していただくようになったことが大きいですね。発信によって広く知っていただき、より高い値段で買っていただけたり、多くのお店に置いていただけたりだとか、可能性が広がっていったんです。現在では当初の6倍くらいの売上になっているんですよ。

福重さんの農園では、現在地域の方々のサポートを得ながら、従業員の方々と一緒に農業に取り組む体制をつくることができています。取材当日も、兄の龍さんは家族と休暇に出かけており、弟の太陽さんは「人を雇うことができているのも、ブランドをつくることができたからこそ」とにこやかな笑顔で語ってくれました。

 

キツいままの農業では新規参入者は増えない

 

谷口さんたちが現在力を入れているのが、伝統野菜「佐土原ナス」の保護です。江戸時代から宮崎県の佐土原町を中心に栽培されていた同品種は、病気に弱かったり、色や形が不ぞろいだったりすることから絶滅寸前の状況にあったといいます。このプロジェクトを百姓隊が手がけることになった経緯は次のようなものでした。

農業試験場に佐土原ナスについて聞いてみると、「宮崎はマンゴーとか金柑みたいな果実に予算と人材が必要で、野菜には手が回らない」と。「どうしたらいいんですか」と聞いたら、「じゃあお前らがやってくれ」となったんです。農業に従事する人間として誰かがやらんといけないという使命感から、研究会を発足しました。そこから研究会の努力が実って、佐土原ナスは復活を遂げました。

 

 

「変な形なんだけど、おいしい」佐土原ナスを残すため、谷口さんたちは早速栽培に取り組み、年月をかけて成功しました。インターネットでの販売、さらには伝統野菜の歴史や調理の仕方の紹介まで一貫して自分たちで手がけています。そんなインターネットをフル活用した農業の出口戦略について、「これも自分たちらしさ」と、谷口さんは笑います。

そんな谷口さんに、これからの農業が抱える課題について聞くと、こんな答えが返ってきました。

農業の新規参入者が増えないのは、「腰が痛い」「手が痛い」といったように身体的負担が大きいからです。各県の農業大学校に授業で行っても同じ意見。終戦後のやり方で今も教えているからで、キツイままの農業ではいけないです。

岩手大学と一緒に研究してみると、身体的負荷はやっぱり腰と膝にかかるんですよね。だから立ったりしゃがんだりせずに、地面を人間に近づける農業の研究をしています。身体的負担をなくす生産方式を取り入れなければ、日本の農業は厳しいと思います。

ゆくゆくは新規就農者を増やすため、IT活用も含めた新しい生産方式の研究・教育を行う事業にも取り組んでいきたいと語る谷口さんと百姓隊の挑戦はまだまだ続きます。

 

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