ピーマンへの志と熱意。IT農業とデータを活用し、チームで栽培に取り組む若手農家たち

「将来的には地域の農家が今の半分程度になってしまう」。そんな危機感を持ってピーマン栽培に取り組む若手農家たちがいます。それは宮崎県西都市のピーマン農家の勉強会「ハッピーマン」です。20代から40代までの農家が中心となって、2年前から勉強会を開いています。市役所や地域のJA、普及所と協力して環境測定ソフトを導入するほか、生育調査や他の地域の視察など、精力的に活動しています。

その熱意はどこから生まれているのか、ハッピーマンのメンバー、幸森寛之さんにお話を伺いました。

 

「農家が今の半分程度になってしまう」危機感からハッピーマン結成

 

ーハッピーマンの活動のきっかけを教えてください。

普及所の方が若手農家を集めて勉強会を開いてくれたことがきっかけでした。その時に普及所の方が語った「将来的には農家が今の半分程度になるかもしれない」という言葉が衝撃的だったんです。宮崎県の農業は、たくさん生産して売るという「量」に強みを持っています。ただ現実として、農家の高齢化・後継者不足で、大量に生産していくのが難しい。「どのように宮崎県ならではの農業を続けていくか」という課題がありました。

ーこれまで、そのような話し合いの機会はなかったんですか。

これまでは農協へ卸している農家と、市場に卸している農家で勉強会も別で、ばらばらだったんですよ。そういう壁をなくして、ピーマンをたくさん採ることを目指す農業者団体を作ろうとしました。その背景には、農家も毎年何を変えていったらいいのかわからないし、普及所からの知識もスムーズに農家に伝わっていないんじゃないか、という思いがありました。

 

 

ーどんなことから活動を始めたのでしょうか。

まずはハウスの環境測定ソフトを出している会社の講演会に出席しました。いろいろな機械がありますが、センサーを置いただけでは収量は変わりませんよね。センサーのデータを基に「どのように管理を変えていくか」という環境制御技術の講演会でした。オランダのトマト農家の事例について紹介されていたのですが、そこで彼らがお互いの収量を見せ合って「収量を上げて行くには」という話し合いをしていることを知りました。

ー話し合いによって栽培方法はどのように変わっていくのですか。

自分1人でやっていたらデータは1つしかとれません。でも、3人でやれば、1年で3つのデータがとれるんです。すると改善方法がたくさん出せるので、3倍加速しますよね。

何個もデータを見ることで、効率を上げていけるのではないかと考えていました。

ーそれがハッピーマンのはじまりなのですね。具体的な活動内容を教えてください。

一昨年の3月にスタートしたのですが、週1回の圃場視察と、月1回みんなで集まって、話し合いをすることです。参加メンバーの収量を全てオープンにして、その月の結果と次の月の予測、困っていることを話し合う場にしました。これらの活動には地域のJAさんにも参加して頂いています。

ーその次の年はどんなことに取り組んだのですか。

市役所や普及所、JAの方が力を入れてくれて、環境制御装置をハッピーマンのメンバーみんなが導入できました。今年はその結果を様子見するところですね。来年や再来年は収量がどんどん増えていくんじゃないかな、という予想をしています。でも、データを揃えただけでは収量が上がるわけではありません。

データを揃えただけでは収量が上がるわけではないというのは?

データとその要因を見て、農家が作業を変えないといけないんです。今はデータを揃えて、装置も入れたので、「今度は植物を見る力をつけていこう」という段階ですね。

ーメンバーの皆さんがデータを共有しあっているからこそできることですね。

そうですね。普通は勉強会で自分の収量をオープンにすることって、他ではあまりやっていないのではないでしょうか。自分の給料を同じ業種の人に伝えるのと同じことなので。

ーそれはそうですよね。ハッピーマンで実現できたのにはどんな理由が?

飲み会が盛んでお互いの人となりがわかっているからかな。消防部と青年部に絶対入らないといけないっていう縛りがあるような地域で。「こういう人間やっちゃ(こういう人間だよね)」というのが分かっているんです。そこは強みですね。今年すでに結果が出ているメンバーもいるので、だんだん地域からの見られ方も変わってくると思います。

ーメンバーも地域の若い方が中心ですしね。

メンバーは全部で12名。年齢にばらつきがあるんですが、26歳ぐらいから42、3歳ぐらいまで。でも年齢は関係ありません。志が同じ人たちなんです。

普通の作業をしながら生育調査をやるのは大変です。それでも「ピーマンを取るぞ」っていう熱量を持ち続けられる人たち。もちろんみんなやり方は少しずつ違うのですが、「ピーマンをたくさんとる」という目標に向かって同じ方向を向いていれば、やり方が違ってもよいのではないかと思っています。

 

 

仲間がいるからこそ「もっと採りたい」という熱意を維持できる

 

ー目標としている地域は?

高知ですね。高知のトップ農家は宮崎の倍以上採るんですよ。環境制御をしているのが大きいと思います。でも宮崎のみんなは自分達の倍の収量を採るピーマン農家がいるということを知らない。それは怖いなと思いました。

ー実際に高知にも行かれたんですよね。

一昨年の12月に、ハッピーマンのメンバーで回ってきたんです。実際に高知の現場を見ると、ハッピーマンのみんなも「俺もがんばらんといかんね」って言ってくれました。その熱量の上げ方ですね。向こうの人たちは結果も出ているので、勢いがありますよね。ガンガン投資もするし、どんどん差が開いていくんです。農家の知識も違う、新規就農者を迎える体制も違う、ハウスの構造も違うんですね。すごく効率的なハウスの仕組みになっています。

ー宮崎と西都の違いはどこにあると思いましたか。

特に西都は、やっぱり労働力が足りていません。高知では大体1反に1人は配置されています。あと、知識の豊富さ。指導員の方からも新しい生物農薬の案内をしていただけますが、取り組む人がいないと、長期スパンで結果を出していくやり方での指導はなかなか難しいですよね。

 

 

ー課題を解決するためにどんな活動を?

他の作物で先進的なことをやっている農家さんの見学に、積極的に取り組んでいます。高知の方と連絡をとったり、農業支援のベンチャー企業に入って頂いたり。色々な方と話をさせてもらって、「今後の課題」や「今自分たちがすべきこと」というテーマで学ばせていただいている状態です。

ーハウスのデータをよりよく活かすためのヒントを、地域の外からももらっているような。

そうですね。あと、ある程度共通の数字がないと話せないんですよ。例えば季節ごとの注意点は、言葉だけでは絶対に伝わりません。経験とデータ(数字)を合わせて、判断の1つの材料にするんですよ。データがひとりひとりの栽培方法を変えるきっかけになるんです。

ーとはいえ、これまでデータと無縁な中で生きてきた農家さんたちにとっては、なかなかハードルの高い話でもありそうです。

ふんばりどころですよね。きつい作業もしながら、改善の為に自分を奮い立たせる。それが大事なのかなと。「もっととりたい」という熱がないとがんばれないんですよ。1日、少しのがんばりを継続するのが難しいですね。今も地域の全員ができているわけではないけれど、まずはやりたいと思った人から始めていければいいのかなと。

ー仲間がいることも継続するモチベーションにつながっていますか。

それはすごくありますね。たとえば、1年目の前作で、夜にハウスの開け閉めに取り組んだんです。「そうすることによって、ピーマンのある空間の湿度が上がりすぎないようになるよ」と教えていただいて。湿度が上がってしまうと、葉が濡れてそこに菌が入って病気が出てしまう。それを防ぐためには夜開け閉めするしかないんです。そしたら実際に病気が出なくなりました。

ーそれは嬉しい結果ですね!それもメンバーみんなで取り組んだのですか?

はい、これはみんなでやったからうまくいったことなんです。というのも、飲み会の途中なんかで1人だけ席を立ってハウスに行くと、他の人から「なにをやってるんだ」と思われてしまう。でも何人かで取り組んでいれば「あいつもやっちょっとか(やっているのか)」と受け入れていただける。さらに、結果が出てくれば、周りの農家さんからも認めて頂けるのも大きいですね。

あとは、みんなの反収をランキングで出していたりもします。そういう工夫で単調な作業の中でも、1年間熱をどれだけ維持できるのかが大切ですね。

ー成果が目に見えるというのは大きいでしょうね。

そうですね。今は、飲み会でも2、3時間ずっとピーマンの話しかしないんですよ。なんとなく入ってきたメンバーでも「すごく栽培がおもしろい」と言うようにもなってきた。大きな変化だと思いますね。そういう考えを持てるようになったのが一番大きいことだと感じています。おもしろがって栽培ができればいいですよね。

ーチームプレーの農業に取り組んで、よかったことを教えてください。

効率よくできることですね。収量を多くとれている農家さんはやり方が分かってるんです。とれていない農家さんは誰に訊いても教えてもらえないし、その情報を言葉で聞いても、それが自分の中でうまく作業として落とし込みができない。チームで取り組めば、その落とし込みが効率的にできるようになるんです。

 

 

自分のために頑張ること。それが地域のためにもなる

 

ーこれから、特に課題として取り組みたいことは何ですか?

もっとピーマン農家全体でつながって教え合い、盛り上がっていくことですね。ちなみに、僕が小学生のとき「西都市はピーマンで日本一」って教えられていました。そのときは確かにものすごい量が出ていたんですけど、実は、今では宮崎県全体で見ても「ピーマン日本一」ではないんです。農家はこのことを知っているんですが、農家以外の人は知らないんですよ。「え、ピーマン日本一じゃないと?(じゃないの?)」って。

ー知らないことが栽培方法にも影響してくるんですか?

なんとなく「昔1位だった」というのがあるので、「俺らのやり方は間違ってない」というところがありますね。だからずっと技術が伸び悩んでいるんです。他の地区は、「あそこの地区に追いつけ追い越せ」と毎年頑張ってると思うんですよね。この地域はだんだん年齢層も上がっていき、販売のルートについても差別化が難しくなってきています。

 

 

ー販売のルートについても差別化が難しくなってきているというのは?

輸送の人手不足で、ライバルの産地である茨城と高知、鹿児島より不利になってきていることが大きいですね。宮崎から販売先のメインである東京に運ぶには、輸送コストがかかる。茨城と高知は東京や大阪に近いんですよ。宮崎は東京や大阪に運ぶのに運賃がかかってしまう。鹿児島は福岡をメインでやっています。輸送の戦略でも宮崎は厳しいんです。

宮崎は量で力を持っていたけれども、それが弱くなってきている。生き残りの策として反収を上げていこうとしているんです。でも、あと4年で3分の1の農家がいなくなるとも言われている中では、その減少速度を遅くして、他の売り方を考えていくことも必要だと思っています。

ーその危機感が生まれたのには、なにかきっかけがあったんですか。

改めて「農業で生きていこう」という決意を持ったことです。それはこの場所で生きていくということ。地域全体がへたってしまったら僕も農家として生きていけません。他にも若い人たちで同じような取組みをやっているところもあるので、全体が盛り上がっていけばいいですね。あとは結果が出れば、見られ方が変わってくると思います。

もちろん高知の例も参考にさせてもらっています。高知の農家さんの場合は、産地間の競争というよりは「日本全体のピーマンを底上げして頑張らんといかんよな」という議論をしているみたいですね。僕らもそこに少しでも貢献できればいいなと思います。

ーその幸森さんの熱意はどこから出てくるのでしょうか。

あれこれ言いましたが、「西都のために」のような大げさなことを考えているわけではありません。とにかく頑張らないと先が見えないので、自分のために必死にやっています。元気がいい農家がいればあとは勝手に盛り上がっていくんだろうなあと。そういう仕組みができて、それが結果的に西都のためになればいいですね。

 

 

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