売上4倍を実現したねぎ農家が語る、「お金よりも大きな」IT農業のメリット

IT農業で人はより重要な作業に専念し、誰が作っても同じ質のねぎが作れるようにしたい――。千葉県の横芝光町で「白砂ねぎ」を作るGREEN GIFT株式会社。同社代表の鈴木敏弘さんが取り組むのは、農作業記録システムを活用した長ねぎ作りです。

鈴木さんがIT農業を推進したのは、作業の効率化や規模を拡大するためだけではありません。その背景には、新規就農者や地域全体を支えたいという想いがありました。

 


 

人を雇用することを条件に、家業を継ぐ

 

ー鈴木さんは、どのようなきっかけで農業を始めたのでしょうか。

私の家は、もともとお米を中心に栽培をしていて、地域の典型的な家族労働経営でした。あまり継ごうとは思っていなかったのですが、兄と姉が二人とも違う職業を将来希望しており残っていたのが私で自分の夢もありましたが中学校のときに継ぐことを考えていたんです。そこで農業系の高校に進学し、農業大学校で学んだ後、21歳で就農しました。

ー中学生のころから就農することを考えていたんですね。

そうですね。でも農家を継ぐときに、私は両親に条件を一つ提示しました。それは、人を雇用すること。小学校のときの家庭の事情というのは、祖父の介護だったんですよね。

両親が仕事と介護に時間をとられ、遊びにも旅行にも行かなかったんです。よくケンカをしていたことも記憶に残っています。祖母も22歳の時に介護になり少ない人数ではありましたがスタッフを雇用していたことで、乗り切れました。子供のころに全てを家族だけで行うのは限界があることを肌で感じていたんですよね。

―そこから「雇用」という答えに行きつくまでの経緯を教えてください。

高校生のときにスーパーや大工など様々なアルバイトを経験したのですが、実家は自営業で農家なのに、なぜ人を雇わないんだろう、雇えないんだろうと思うようになったんです。

農業大学校のときには、県内の先進的な取り組みを行う農家で1カ月間研修をしたのですが、そこは社員やアルバイトという形で人を雇用していたんですよ。継ぐのであれば「これまでと同じやり方では経営はできない」ので、人を雇用して規模を拡大したいなと。

ー現在は、ご両親の時代にはやられていなかった長ねぎ作りをされています。

横芝光町は、春や秋にお米、冬にねぎという形の農家が多いです。ただ私は就農から5年くらい、小ロット多品目で15品目ほどの野菜を栽培していました。収穫サイクルが早い小松菜やほうれん草などを育てて、年間で仕事が回せるようにと考えていました。

しかし、規模を拡大しようとするほど私自身が外に営業に出ることが増え、スタッフにノウハウが蓄積されずに、なかなか現場が回らないという課題が出てきてしまったんです。26歳のときに、ある程度効率化できるものをということで、長ねぎ一本に絞りましたね。

 

GREEN GIFTが栽培するブランド「白砂ねぎ」

 

データを活用することは、従業員のメリットにもなる

 

ー効率化を進めるために、具体的にどんなことを進めたのですか?

ITの力を借りて、経験の浅い従業員でもスムーズに仕事を理解できるようにしたいと考えました。誰かの経験に頼る状況ではなく、ノウハウの蓄積や自動化をできたらいいなと。

ーそこでクラウドサービスの利用を始めたのですね。

はい、農作業記録システム「アグリノート」を導入しました。アグリノートでは、航空写真を利用して日々の作業を記録することができます。日々の記録はデータとして蓄積され、スマートフォンやタブレットなどの端末からいつでも確認することが可能です。

IT農業を導入するときに壁となるのが、初期費用だと思います。他のITシステムを試したことがありますが、少なくとも数十万というお金が必要になります。しかしアグリノートの場合、年額約4万円くらいから始めることができるのもメリットでした。

ーアグリノートの導入によって、どのような効果があったのでしょうか。

日々の作業を記録しておくことで、新しい従業員が入ってきた際にも「去年の今頃はこういう仕事をしていたから、来週はこういう仕事がある」と知ることができます。

データを入力した従業員も、去年の仕事の記録を見て改善材料にしていける。1年後同じことを繰り返さないよう、特に失敗をした要因はきちんと記録するようにしています。

―データを記録していたことで、他にメリットなどはありましたか?

栽培歴の管理ができることで、バイヤーさんからの信頼が増したことも大きな効果でした。GREEN GIFTの作物ではなかったのですが、取引先で異物混入のトラブルが起きたんです。3〜4つほどの産地からバイヤーさんに届いた作物で、どこの農家からの荷物か、どんな栽培歴のある荷物かを詳細に把握しなければいけなかったんです。

私たちはアグリノートで日々の記録を取っていたため、そのデータを提出するとバイヤーさんから「しっかりやられているんですね」と評価いただけたんです。それ以来、取引量が20〜30%増えて。データを記録することが、信頼にもつながることを実感しました。

ーしかし、日々の農作業の記録を入力しなければいけないことは、従業員にとって面倒なことのようにも思います。抵抗感のようなものはなかったのでしょうか。

8年前からいる従業員の中には、「こんな事務作業が増えるのか」みたいな雰囲気はありましたね(笑)。でも導入してから、すぐにその価値を理解してくれました。

経営者としては、データ入力をきちんとしているかどうかも人事評価に反映しています。つまり、データを入力することが自身の給与にも跳ね返ってきますし、そのデータを基に効率化ができれば残業時間も減るということを根気よく伝えましたね。

―データを基にした効率化は、売上の向上にもつながったのでしょうか。

効率化は地道なものでしたが、アグリノートを導入してから売上は4倍以上になりました。

 

アグリノートのイメージ 出典:ウォーターセル

 

新規就農を支援し、地域に成功モデルを

 

ーGREEN GIFTとして、今後はどのような展開を考えていますか。

これまでも取り組んできた新規就農者支援に力を入れること、そして1月に設立した農事組合法人を通して地元農家を活性化すること。この2つに取り組みたいと考えています。

新規就農支援の背景としては、横芝光町の後継者不足問題があります。後継者となる経営体は今30〜50人ほどいますが、実際に事業規模を拡大するのは一握りでしょう。

そのため今後増えてくる耕作放棄地への対応として新規就農者向けに、農地のあっせんや機械のリース、経営支援といった支援を行っています。まずはGREEN GIFTで3〜5年社員としてノウハウを学び、独立してもらうことを薦めています。

―農業組合法人では、具体的に何をするのでしょうか?

地元のねぎ農家を集めた農事組合法人でも、アグリノートを活用した記録付けをして、取引先への報告を行っています。新規就農のメンバーにも、アグリノートのデータを共有したりしていますね。技術共有をしながら販路拡大も目指していきたいです。

横芝光町自体も過疎化や少子高齢化など、地域の課題が多く出てきました。やはり地元が廃れていく姿は見たくないので、GREEN GIFTや農業組合法人で成功モデルを作りたい。「面白いことをやっている会社がある」と評判を呼び、地域の活性化につながればなと。

ーITの活用については、今後何か考えられていますか。

誰がやっても、同じ品質の作物が作れるようにしたいと考えています。これまでアグリノートの他にも、GPSの情報を活用したトラクターの自動操縦やねぎの自動判別機などを導入してきました。米作りでは、田んぼの水位を測るセンサーも導入しています。

全自動のかん水システムなどを導入すれば、より効率化が可能になるでしょう。導入することも考えていないわけではありませんが、アグリノートを通して日々記録をつけて改善材料にしてもらうことで、新規就農者に基本を身につけることも大事にしたいと思っています。

 


 

家族経営の農家から一転、組織として農業を行い、地域の成功モデル作りを目指すGREEN GIFT。データを記録することを従業員の評価にも取り入れるなど、独自の取り組みが印象的でした。新規就農者支援を行うことで、「横芝光町と他地域の農業も盛り上げたい」と語る鈴木さん。IT農業が、その手助けとなっていくのではないでしょうか。

 

 

活用ツール紹介

農作業記録システム「アグリノート」 (http://www.agri-note.jp/
航空写真マップを活用して、農作業の記録ができるクラウド型農業支援システムです。増える農地の管理や作業管理をたどった栽培管理表の作成など、デスクワークに苦労している農家向け。インターネット環境さえあれば、いつでも・どこでもスマートフォンやタブレットから記録やデータの確認が可能になります。

>アグリノートについて

 

その他の記事

お問い合わせ