IT農業と匠の技の融合でイチゴ栽培。「いいものを作りたい」という思いは機械化しても同じ

宮城県山元町。2011年の東日本大震災で平野部のほとんどが飲み込まれた町です。町の名産品のイチゴを作っていた農家も、津波で多くが流され、大打撃を受けました。

そんな時に、故郷である山元町に戻ってきて、イチゴ栽培を全く新しいやり方で始めたのが岩佐大輝さんです。農業生産法人の株式会社GRAを立ち上げ、ITを使ったイチゴ栽培を始めました。

創業から6年。ITと地元の匠の技によって磨きぬかれたイチゴは「ミガキイチゴ」として一大ブランドに成長しました。新規就農支援事業、海外での栽培事業と挑戦を続けています。

匠の技とITをどのように融合させていったのか。岩佐さんに伺いました。

 

津波でイチゴ農家の95%が流された町、「勘の再現」で一刻も早く地域を豊かにしたかった

 

ー農業分野で事業を立ち上げたのはどうしてですか。

2011年に故郷の山元町が震災で被害を受けて、イチゴ農家も全体の95%が流されてしまったんです。イチゴ農家を復興させることで、町を復興させようという思いが強くなって、2011年の9月に農業を始めました。

ー初めて農業に取り組む際には、誰かの指導を受けましたか。

最初に会ったのが農業40年の橋元忠嗣さんという方で、勘と経験が全てだという人でした。自分たちの創業のミッションが、「農業を強い産業にして、雇用を作って、地域社会を盛り上げよう」というものなんですよ。どんどん新しい人たちに入ってもらうために、農業を横展開しなきゃいけない。

 

 

ーそれで橋元さんのイチゴづくりの指導を受けようとしたんですね。

そうです。創業1年目の2011 年は橋元さんの指導を受けながらイチゴ栽培をしていました。でも、「イチゴづくりっていうのは他人に教えていくものじゃなくて、イチゴと会話しながら覚えるものだ」といつも言われていて。「じゃあ何年会話すればいいの」って訊いたら、「15年俺についてくればわかる」って。

ー15年。

15年間一緒にやってもいいなとも思ったんですけど、これだけ人口が減っていく中で、山元町なんてこの5年間で25%ぐらい人口が減っているわけですよ。そこで15年待って産業を作っても時すでに遅しです。

ーだから、早く事業として成立させなければいけないということですね。

そうです。なので、彼の勘とか経験を、精度が高いものとして再現性を持つために、ITによる環境制御とモニタリングを始めたんです。精度が高く、再現性が高いことに加えて、データと出来高、そして栽培方法の因果の関係がはっきり分かるのというのがポイントですね。農業をやるうえで、「計画・実行・評価・改善を早く行うことができる」ようになるんです。2年目の2012年のことでした。

 

 

ーIT農業を取り入れると言ったときに、橋元さんはどんな反応でしたか。

最初は大反対でしたね。でも最近はITが生産性を高めることを認めてくれるようになりました。

「ITもいいけれど、もっとイチゴと会話しろ」っていうことをずっと言ってます。それもすごく大事だと思ってます。全く違う角度から切ってくれる人はやっぱり必要です。橋元さんのことは、本当に尊敬してます。人間が見ないとわからないことも多いし、センサーだって100%正確ではないんです。

ーITのよさも認めてくれているんですね。

いいところを認めつつ、旧来型のいいところも忘れるなよっていうことです。両方しなきゃいけないですよね。どちらかだけだと偏っちゃうから。はじめは、新旧のぶつかり合いが生まれますけどね。

ー橋元さんがIT農業を認めてくれるきっかけとなった出来事はありましたか。

ITと匠の技の融合によって、おいしいイチゴができたことでしょうね。「自分が作ったこともないようなイチゴだ!」って認めてくれたんです。しかも若者が大量に作っている。自分1人では成しえなかったことができたということを認めるようになってきたんですね。

 

 

ーITで作っているから心がこもっていない、という言われ方をされることはないのでしょうか。

いいものを作りたいっていう思いはどんなやり方をしている農家も一緒です。よいものを作るのに、勘と経験なのか、またはITを使うのか、というスタイルの違いだけです。勘と経験だけでやっている人を批判するのもよくないし、その勘と経験でやっている人がテクノロジーを批判するのもよくないし。それぞれいいところが必ずあると思うんですよね。

ー勘と経験から学ぶところはあるんですか。

勘と経験から学ぶことはめちゃくちゃ多いですね。だってその人たちは答えを持っているわけですから。言語化されていないけれども、何をしたらよいのかっていうのは全部体の中に入っている。尊敬されてしかるべきですよね。その人たちから僕らはどうやっていいものを引き出していこうかっていうのが我々のやらなくちゃいけないことです。

ー40年間やってきている方たちですものね。

とはいっても、ずっと勘と経験でやっていたら規模の拡大はできません。企業として社員を育てて地域のインフラになるのであれば、拡大再生産が必要です。会社が大きくなって、地域が豊かになっていく、そんな夢を一緒に見たいですね。

 

ミガキイチゴ。ITで作ったイチゴの価値を価格に反映させようと、2013年にブランドを立ち上げた。

 

 

ITが農業をクリーンかつ楽しいものに

 

ー若い方で自分もGRAの活動をやってみたいといってくる人はいますか。

GRAで新規就農支援事業というのを立ち上げました。1年でイチゴ栽培の基本を習得させるんです。山元町の寮に住んで、1年間集中的にトレーニングを受けてもらって、そして独立をするというプログラムを組んでいます。つい先日1期生が卒業しました。そういったプログラムでどんどん若い人、いや、老若男女関わらずいろいろな人に入ってきてもらおうと思ってます。

ー新規就農者って2、30代の方のイメージが大きいのですが、そういうわけでもないですか。

2、30代が多いですが4、50代もいます。60代もいたかな。女性も2、3割ぐらいいますね。脱サラが多くて、研究やマーケティング、会社の創業を経験したいっていう人は、GRAに新卒で入ってくることが多いですね。これまでの師弟関係的な農業とは異なるやり方でイチゴ栽培について伝えていきたいと思っています。

 

 

ーイチゴ栽培に必要なデータとは何ですか。

温度、湿度、日照量、二酸化炭素濃度、栄養分ですね。全てITのセンサーでデータベースに記録しています。

ーデータをどのように活用していますか。

糖度が落ちてきていれば、どういう状況なのか分析します。平均温度、肥料の濃度、二酸化炭素の濃度……そういうものを分析して課題の原因を探ります。あとは年単位で計画・実行・評価・改善を繰り返しています。平均温度を分析して、収穫時期を延ばそう、とかね。そういう意思決定をしたりしてますね。データは社内みんなで毎日見ています。データを分析する会議も毎週やってます。

ーなるほど。ものすごくスピードが上がってますね。昔は収穫するまで成果がわからなかったわけですよね。ITのおかげで、1年単位でやっていたものが、時間ごとで見れてしまうことになりますか。

そうですね。数秒おきにカウントされてるので。今何度で、どういう状況にあって、ハウスのどこの窓が開いてるっていうのが、全部わかりますから。改善には記録が必要です。勘と経験でやっていたものをITでやっているから、スピードは明らかに上がっていますね。

 

 

ー生活も変わってきますね。

そうですね。融通のきく生活だと思います。人間がやらなくてもいい仕事は機械がやってくれますから。人間は重要な業務に集中できるようになりますよね。

ー人間がやらなくていい仕事とは何でしょうか。

本来は早朝に来て水をあげなくてはいけなかったのが、朝の3時になったら自動的に窓が開いて、水や肥料を与えてくれる。少なくともその仕事っていうのは人間がやらなくていいわけですよ。人間がやるべきなのは、例えば植物体を見て、判断や意思決定をして、いじるとか。あとは、辛すぎる仕事は続かない。そういう仕事でどんどん機械化、IT化が進むといいですね。

ー「辛い仕事は辛い」と素直になるということですか。新しく農業を始めたい人に対してもその視点は必要そうですね。

楽しくなきゃやっぱり続かないですよね。ライフスタイルの魅力をPRしていくようなことができればいいなと思います。たとえば僕はたまに東京や海外で仕事をすることもありますし、「つらくて汚いだけの農業」ではなく、クリーンで楽しい、融通のきく生活もあるんだということを伝えたいですね。

ー農業の楽しさとはなんですか。

没頭できますよね。ものを育てるっていうのは、いい気分になるんですよね。苗の状態だったものが次々と実を生みだしてくれるわけですよ。その充実感というのは特別な感じがしますよね。

ーありがとうございました。最後に、農家さんがITを入れていくときに注意すべき点を教えてください。

目的意識をちゃんと持つことだと思います。目的意識がないと、設備を導入したところで改善しません。ITを入れれば儲かるわけではないです。ITなんてただの手段にすぎないんですよ。必要なら入れればいいし、必要じゃなかったら入れる必要はない。「何のためにITを導入するのか」っていうのを忘れないでほしいです。

 

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