11人の出荷管理を「ITツール」で効率化-FENNELがヨーロッパ野菜にかける思い

さいたま市内にいる11人の若手農家で構成されている「FENNEL(フェンネル)」。埼玉県内のレストランによる呼びかけから生まれた、約70種類のヨーロッパ野菜を栽培する農事組合法人です。行政や種苗会社、卸売業者なども含めた産学連携によって作られたヨーロッパ野菜は注目を集め、これまでに新聞やテレビなど多くのメディアで紹介されてきました。

そんなFENNELも「IT」を活用した出荷管理に取り組んだことによって、生産性が大幅に向上したといいます。FENNEL副代表理事の森田剛史さんに話を伺いました。

 

売れるから作るのではなく、作った野菜を一生懸命売る

 

―最初にFENNELがどのようにして設立されたか教えてください。

2013年4月に設立した「さいたまヨーロッパ野菜研究会」が始まりです。この研究会は農家だけでなく、行政や種苗会社、卸売業者、県内のレストランで構成されています。

発足したきっかけは、埼玉県でレストランを経営している北康信さんの「本場の野菜を使いたいけど、輸入物は値段が高い割に鮮度が悪い」という思いでした。たまたまトキタ種苗が「国内でヨーロッパ野菜の種を販売する」という発表を当時していたこともあり、北さんとトキタ種苗がつながって、栽培してくれる農家を募集することになったんです*)。

*)北康信さんは、埼玉県内でイタリアンレストランを経営しているノースコーポレーションの代表取締役。さいたまヨーロッパ野菜研究会の会長も務めている。
*)トキタ種苗は、埼玉県さいたま市に本社を置く種苗メーカー。

―その募集に森田さんを含めた若手農家が参加した形ですか?

はい。大宮で開催された説明会で話を聞いたときに、「面白そうだな」と思って参加しました。それまでは小松菜を育てていましたが、同じ地域に大規模な小松菜農家が増えてきて。小規模でやっていた私は、価格競争に巻き込まれるとやっていけなかったんですよね。

そこで新しい作物を探していたときに、ヨーロッパ野菜との出会いがありました。研究会に参加した農家は最初4人だけでしたが、2017年12月現在では11人となっています。

 

さいたまヨーロッパ野菜研究会の組織図

 

―初めて栽培する作物ばかりで、苦労はありませんでしたか。

作物それぞれの正解の形、収穫のタイミングが分からないのは苦労しました。だからレストランのシェフに聞いたり、生産者同士で目ぞろい会を開催したりしましたね。

他には、安定供給の問題がありました。ヨーロッパ野菜は高温多湿に弱いものが多いので、日本での栽培は規模が大きくなるほど難しいです。(2017年)10月末にあった台風でも、大きな被害を受けました。今でもトライアンドエラーを繰り返しながらですね。

―研究会から法人化したのには、どんなきっかけがあったのでしょうか。

農家ではなく、さいたま市産業創造財団(行政)からの要望だったんです。規模の大きい会社と取引するときに、法人であれば信用を得られるし、契約も容易になります。卸売会社や食品会社は、個人だと契約できない場合もあるので。そこで2016年4月に法人化しました。

―他にFENNELとしての特徴はありますか。

レストラン向けに栽培していますが、直取引はしないことにこだわりました。FENNELは複数の農家が集まっているので、一つ一つのレストランから少量の注文を受けてしまうと、そのたびに農家が集まらなければいけません。だから、基本的に卸売業者と大量取引をしてくれるところに絞りましたね。今では、10社以上の卸売業者と付き合っています。

―法人化して良かったことや成果を教えてください。

お客さんの顔が見えるようになりました。今までは市場や農協に出して終わっていたのが、展示会に行ったり、レストランやホテルで食べて話を聞いたりすると、やりがいにつながりますよね。今回の取材も含めて、他業種の方との交流も増えたので面白いです。従来は、小松菜を作って市場に出すという一定の流れをはみ出ることはなかったので。

 

ヨーロッパ野菜の「チーマディラーパ」

 

―出荷額などの変化はありましたか。

2013年の初出荷から、FENNEL全体の出荷額は4年で40倍以上になりました。耕作放棄地の活用や新規就農者の雇用にもつながり、講演に招待されることも。ビックリしますよね。

講演では「何を作ったら売れるの?」と聞かれることが多いです。それに対して私はいつも「知らない」と答えます(笑)。なぜかというと、FENNELは売れるからヨーロッパ野菜を栽培しているのではなく、“栽培したものを一生懸命売っているだけ”だからです。

―シンプルですが、原点ですよね……。

農協や市場とケンカするつもりはないのですが、FENNELは「自分たちで作ったものを、自分たちで値段を決めて売りたい」という思いが根底にあるので、そこはこだわりたいなと。

 

動画を活用した教育コンテンツも作成へ

 

―FENNELでは、出荷管理にITを導入していると伺いました。

出荷作業の人手が足りなかったのがきっかけで、栽培履歴の記録や出荷管理を無料でできるスマートフォンアプリ「畑らく日記」の活用を始めました。畑らく日記は「いつ」「どんな作物」「誰が収穫したか」などを、作業の合間に記録できます。

FENNELのメンバーは、同じ「畑らく日記」のアカウントに記録しています。これにより栽培記録を互いに共有できます。また注文が届くメールアカウントと畑らく日記を連携したため、すぐに注文の内容を把握することも可能です。記録したデータをExcel(エクセル)ファイルとしてダウンロードできるので、請求書や納品書作りにも役立ちます。

 

畑らく日記のイメージ 出典:株式会社イーエスケイ

 

また日常的なコミュニケーションは、LINEのグループトークを活用しています。ファイルの共有についても、GoogleのスプレッドシートやDropbox(ドロップボックス)を活用しています。私たちは同じ法人で働いていますが、同じ建物の中で働いていません。そのためITツールを活用して、「見てない」「聞いてない」という状況をなくす必要がありました。

―複数の農家が関わっているFENNELだからこそのIT活用ですね。

今後は栽培の様子を動画で記録してQRコード化して、新しく雇用する人のための教育コンテンツを作りたいと思っています。規格表は既にありますが、文字だけだと伝わらない部分もあるので、細かいニュアンスは音声や動画で伝えられたらと。これらのITツールはほとんど無料ですので、農家も「やる気」次第で手軽にITを活用できるようになりましたね。

―FENNELの皆さんが若いのもあると思うのですが、LINEやGoogle、DropboxといったITツールを活用している農家さんは、なかなか少ないのではないでしょうか。

私たちがITツールを知っていたわけでなく、プロの方に教えてもらいました。そこは行政と一緒に取り組んでいるメリットで、講座など新しいことを学ぶ機会を与えてくれたんです。

―最初から行政やレストランと取り組んだのは、大きな意味を持ったわけですね。

農家だけだったら売れずに、途中で諦めていたかもしれません。行政やレストラン、卸売業者、種苗会社の複合体だったのは良かったですね。それぞれから手助けしてもらえたので。

役所関係の手続きや補助金の申請って、よく分からないじゃないですか(笑)。FENNELの場合、それらを行政の中で担当してくれている女性が中心に動いてくれました。

―そういう方が行政にいて、間を取り持ってくれるのは良いですよね。

相当ケンカもしましたよ(笑)。関わる人それぞれ「プロ」であり「素人」なので、相手の都合を考えないというか。でも色んな農家さんに話を聞くと、うまくいかない取り組みって“農家が中心”になっているんですよ。サポートしている行政側も含めて、全員が農家を見て、農家の都合ばかりを気にしてしまっている状況です。FENNELの場合、周囲が農家の都合を気にしてくれなかったことが、成功につながっているのかなと(笑)。

―ありがとうございます。最後にFENNELのゴールや今後の展開について教えてください。

まだFENNELは走り出したばかりなので、ゴールは特に設けていません。とにかく今は規模拡大や安定供給などを目指しています。現状の課題としては、規模を拡大するほど規格外の野菜が増えてしまうので、畑全部をお金にしていくことが直近の目標ですね。

あとはヨーロッパ野菜にこだわらず、色んな野菜を作りたいです。何を作っても、売るという工程が大事だと思っています。こだわって作る人は見てきたけれど、同じくらい売る努力をしている人は、ほとんど見たことがないです。だから先ほども述べたように、売れる野菜を作るのではなく、作った野菜を売ることにこだわっていきたいと考えています。


 

「売れる野菜を作るのではなく、作った野菜を売る」という徹底したこだわりを持つFENNEL。産官学連携によるヨーロッパ野菜の普及やITツールを活用した効率化、農業に対する考え方は、法人でない農家の方々にもヒントになることが多いのではないでしょうか。

 

FENNEL副代表理事の森田剛史さん

 

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