ドローンで米の収量20%向上?! 全国の若手農家に広がる新しいモニタリング

青から黄金色へ、季節が巡るにつれ色彩を変える田園風景。多くの日本人にとって、田んぼは懐旧の情を起こさせる風景です。しかし、そんな田んぼの多くが「兼業農家」によって経営されていることをご存知でしょうか。農林水産省の統計によると、稲作の販売農家のうち主業農家(収入の半分以上を農業が占める農家)は全体の22%。田んぼの風景は、“副業”として稲作をおこなっている兼業農家によって守られているのです。

兼業農家にとって、難点となっているのは時間の捻出。平日は会社に勤務し、週末は農作業に追われる、忙しい日々です。
埼玉で稲作の兼業農家を営む田中圭さんが導入したのが、ドローン。大学で学んだ地理学のノウハウを活かしてドローンで田んぼのモニタリングをしたところ、収量が20%アップ。食味も良くなりました。作ったお米を「どろーん米」として販売し、ファンを増やしているそう。

着実に成果を見せているドローン水稲モニタリング。今回は田中さんにドローン農業のメリットや、新規参入者へのアドバイスを伺いました。IT農業の新たな可能性を感じるインタビューです。

 

就農のきっかけは「ドローンを使いたかった」

 

 

ー田中さんは現在、兼業農家として活動されているとお聞きしました。稲作に携わるのは週末が中心ですか?

基本的に稲作に携わるのは週末です。平日は東京の会社で仕事をするほか、大学の非常勤講師として授業もしています。

ー休みがなく、かなり忙しそうですね…。

農業に従事していることは職場の理解もあり、忙しい時は有給を取得して農作業に当てています。1時間単位でも有給が取れる職場環境のおかげで、生育の適期を逃すことなく栽培することができています。

ーもともと実家の農業を継ごうと思っていたのでしょうか。

漠然といつかは継がなければいけないと思っていました。そんな思いのなか、ドローンと出会ったことがきっかけで農業に興味を持ちました。2014年に祖父と父の手伝いから始まり、翌年からは代替わりをし、本格的に水稲栽培を行うようになりました。

ードローンが就農のきっかけになっているのですね。

ドローンが販売され始めた頃、学生時代のつながりでドローンを用いた共同研究の提案をいただきました。このタイミングと、農業の手伝いを始めたタイミングがちょうど重なり「ドローン×稲作」でなにかおもしろいことができないか、と着想を得たのが始まりです。

 

 

また、ドローンが販路開拓の端緒となるのでは、という思いもありました。黒字収支を目指すうえで、ただ米を卸すだけではなく、自らインターネットや対面でも販売ができるようにしておきたかったのです。個人のお客様に直接販売するのに、「ドローン」というキーワードがセールスポイントになるのではないかと考えました。

ー学生時代ではどんな研究をしていたのでしょう。

学生時代は主に高山植物の植生調査を衛星画像や航空写真を用いて研究をしていました。当時は、自分で上空から撮影するのは非常にハードルが高くて無理でした。それが今は誰もが簡単に上空から撮れるドローンの登場は非常に革命的でした。僕の知的好奇心もあり、ドローンはどうしても使ってみたかったのです(笑)。

 

センチ単位で凹凸を把握。「次の一手」がより正確に

 

ー実際にドローンを使って、どのようなデータが得られるのでしょうか。

追肥時期や収穫適期、収量から食味まで。生育ステージに応じ、さまざまなデータを取ることができます。圃場を可視光や近赤外線カメラを用いて上空から撮影するのが基本的なモニタリング方法になります。上空から撮影すると、稲の生育状況がはっきりとわかります。そうすると、生育不良の部分だけをピンポイントに追肥できるので、無駄な肥料を撒かずに、コスト削減にもつなげることができます。

 

田中さんの農事暦。基本は週1回の頻度で撮影する。生育ステージに得られる情報は異なる。

 

ドローンで空撮した画像から追肥の判定。稲の生育不良箇所(青い部分)のみ追肥を行なう。

 

ー農閑期にはどのような計測を行なうのでしょうか。

農閑期はドローンを用いて、圃場の凹凸を測量して高低差を把握します。具体的なデータをお見せしますね。

 

 

これは代かきをする前の圃場の高低差を示した地図になります。赤い部分が周囲に比べて高くなっているところです。ここの圃場は雨による土砂の流入で南側が高くなっていることがわかります。

ーすごい。はっきりとわかりますね。

圃場に高低差があると均一な水管理が難しくなり、生育のばらつきが生じてしまいます。例えば、低いところは中干ししているにも関わらず水が溜まってしまい、倒伏のリスクが高まってしまいます。センチメートル単位で凹凸が把握できたことで圃場を均平にでき、収量が20%向上しました。ドローンを導入して良かったのは、この農閑期の圃場の測量かもしれません。

 

代かき後に測量した凹凸地図。突出して高い部分はなく、均平になっていることを確認できる。

 

圃場の高低差を知るためには、今までだとレーザーを用いて測量するのが主流だったのですが、コストがどうしても高額になってしまいます。一方で、ドローンは1台8万円程度(自作した場合)です。操縦方法を覚える必要がありますが、それでも低コストで凹凸を把握することができます。

ードローンを導入した1番のメリットはなんでしたか?

数値ではっきりとしたデータを得ることができるため「次の一手」を正確に打つことができます。今まで目分量だった肥料などの量を正確に算出することができるため、無駄な消費がなくなりました。また、好きな時に上空からデータが取れる簡便性も、ドローンの大きな魅力の1つです。

 

 

さらに「ドローンでつくったお米」というキャッチコピーが生まれたことで、個人のお客様への販路も開拓することができました。いまは個人的な範囲での販売が多いですが、少しずつファンも増えています。ドローンのデータのお陰で食味も良くなっているので、これからもファンを増やしていきたいですね。

 

 

 

兼業農家の悩みをドローン・ネットワークで解決したい

 

ードローン農家、これからどんどん広がりを見せていきそうな可能性を感じます。

ドローン農業についてブログで発信しているのですが、ブログを読んで連絡をくれる農家さんがいて、広がりを見せる可能性を感じます。なかには鹿児島から埼玉に見学に来てくれた若手農家さんもいました。その人はドローンを自作するところから、さまざまな試行錯誤をしています。去年(2017年)1年間掛けて準備をして、今年(2018年)からドローンでのモニタリングを始めるそうです。他にも、新潟・秋田の会社や農業試験場の方とも話をしているところです。

ードローン水稲モニタリングの普及に向け、今後やっていきたいことを教えてください。

イネの生育には田植えの時期や品種、気温・日射量などさまざまな地域差が影響を与えます。そのため、ドローンで収集したデータは地域の環境によって違いが表れるので、それらを実証して、日本全国に対応したドローン水稲モニタリングを普及させていきたいと思っています。
日本の多くの農家は家族経営かつ兼業農家がほとんどで、農業に対する時間・金銭的にも余裕がありません。ドローンはその課題を解消する可能性を持っています。これからはドローンを用いた水稲の生育調査方法をパッケージ化し、日本全国でノウハウを共有しあうドローン・ネットワークを広げていきたいです。

ー最後に、これからドローン導入を考えている農家さんにメッセージがあれば、お聞きしたいです。

ここまでドローンについて語ってきましたが、農業は現場に出ることに意味があります。データだけに頼るのではなく、実際の作物の様子を見ることが肝要です。ドローンで得られるデータは、あくまで“感覚の補助”にすぎないことを思い留めておくべきでしょう。

ですが、低コスト・短時間でデータを得られるドローンは、兼業農家だけでなく、専業農家にも受け入れられるポテンシャルを持っていると思っています。これからドローンの可能性に多くの農家さんが気づき、ドローン農業が活発になっていけばおもしろいですね。

 

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