農業の次なるステップは「データの活用」だ―できる.agriセミナー第2回レポート

11月20日、できる.agri第2回目となる農業×ITセミナーを熊本県で開催しました! 今回は「安定収穫と供給編」と題して、トークセッションとワークショップを開催。IT化に取り組んでいる農家として事例を紹介してくださったのは、熊本県山鹿市でニラを栽培する農業生産法人ホワイトファームの永原雄介さん、熊本県阿蘇市でトマトを栽培する山中大輔さんの2組です。

できる.agri実行委員会からは、AI(人工知能)搭載の土壌環境制御システム「ゼロアグリ」を提供する株式会社ルートレック・ネットワークス(以下、ルートレック)、農業総合プロデュースをコンセプトとした事業を展開する株式会社クロスエイジ(以下、クロスエイジ)の2社が登壇しました。

またセミナー冒頭には、特別講演としてテラスマイル株式会社の生駒祐一さんから「データを活用した農業戦略〜農業におけるICT/IoT活用とAI活用事例・今後の挑戦〜」についてお話いただきました。テラスマイルは、月額性の営農支援サービス「RightARM(ライトアーム)」を提供しています。

RightARMとは、現場を知る専門家のノウハウと人工知能を組み込んだ自動のデータ分析システム。生駒さんは、蓄積しているデータはあるけれど忙しくてなかなか活かせていない経営者に向けて「データ利活用による意識改革で、農業者自身が『稼げる農業経営者』に成長できる」と強調しました。

地上部、地下部の環境データから収量データに至るまで、データを取得するだけでなく活用することで、より明確な経営方針を打ち立て農業の生産へも活かすことができるという内容のお話でした。

 

 

本レポート記事では、農家さんと実行委員会参加企業による2本のトークセッションの模様をお伝えします。

 

データを活用することで、スピード感が増す

 

最初の講演テーマは、ホワイトファームの永原雄介さんとクロスエイジの藤野直人さんによる「安定供給や固定販売におけるITの活用」です。

ホワイトファームは、クリーニングのホワイト急便が運営する農業法人。九州県内4つの産地と連携することで、品薄な時期の納品に対応し周年収穫を可能にしたとともに、データ分析を活用した安定供給の強化に取り組んでいます。

データ分析を活用するときに、信頼できるパートナーとなったのがクロスエイジでした。例えば「火曜日にクレームが多い」など、農家だけでは気付かない改善点を教えてくれたそう。データを分析して、売り上げの向上につなげてくれたという安心感が、ホワイトファームの安定供給を可能にしたといいます。

(クロスエイジと)最初に会った時、良い方だなということが分かりました。まだ作物の品質が低いときにクレームが多発してしまったことがあって、1年間ほど取引できない時期もありました。でもその後にまた連絡をくれて、たくさん販売してくれたんですよね。自分が思っていたことを受け止めて、形にしようとしてくれたことで、信頼関係が生まれた気がします(永原さん)

 

左から永原雄介さん、クロスエイジ・松永寿朗さん、藤野直人さん

 

クロスエイジが支援する農家に共通しているのは、農業所得1000万円以上を目指しているかどうか。藤野さんによると、農家の所得は平均130万円、1000万円以上の所得を実現しているのは約2%です。その2%の農家を目指すためには、ITシステムやデータの活用が重要になってくるといいます。

データの活用を最近押し出しているのは、スピード感が増すからです。事業計画を立てるときに、売り上げや出荷量などのデータは周囲に納得してもらう一つの材料となります。そのため、早くから取り組んでいる農家のやり方を可視化して、次にやる農家の指標を作ることが重要だと思っています(藤野さん)

ホワイトファームとクロスエイジが今後目指すのは、良いニラを作ることを前提として、生産から販売までのデータを一貫して確認できるシステム作り。講演の最後に、永原さんは参加者にこんなメッセージを残してくれました。

数字があるところには、必ずデータがあります。そのデータを活用することが、農家として次のステップに進むために必要だと思っています(永原さん)

 

水やりと肥料について考える必要がなくなった

 

次に登壇したのは、トマト生産者の山中大輔さんとルートレックの石本圭子さん。両親は一般的な会社員だった山中さんが農業を始めた理由は、もともと生物や植物が好きで、大学で農学部を専攻したことが大きいそう。

実際に農業を始めて「ストレスはなかった」と言いますが、失敗した要因が分からなかったことや、収穫で一番大事な朝の時間帯に2~3時間水やりをしなければいけないことに苦労しました。その課題を解消するため、自動かん水システムを検索していたときに見つけたのが「ゼロアグリ」です。

ゼロアグリは土壌の環境情報データを基に、かん水と肥料の最適値を計算し、自動で供給します。データはクラウド上に保存されているため、インターネット環境があれば、どこでもデータの閲覧が可能な土壌環境制御システムです。

石本さんによると、生産現場で「データの見える化」をする農家はいますが、土壌環境制御まで可能なシステムはゼロアグリが先駆けだそう。一方で自身の目で判断し、蓄積してきた経験に対する農家のこだわりは強いといいます。

農業は勘と経験に頼らざるをえない部分が大きいと農家さんたちは考えているため、データを活用することで、栽培管理がどの程度変化するかわかってもらうのはむずかしいです。しかし熊本県の農家さんは非常に新しい技術に前向きに取り組み、ITの可能性に期待してくれる人が増えています(石本さん)

 

左から、できるagri実行委員会で当日のファシリテーターを務めた70seedsの岡山史興と、山中大輔さん、石本圭子さん

 

当初は半信半疑だった山中さんも、ゼロアグリを導入している農家を見学したことで、意識の変化があったといいます。これまで他の営業から“それらしいこと”を言われて、試してみても何の効果がなかったことがありました。しかし、ルートレックは必要としていたシステムを提案してくれたと強調します。

実際に導入してみると、水やりと収穫の時間が大幅に短縮されました。ゼロアグリ導入前は、水や肥料の量も半信半疑で悩みながら決めていましたが、ゼロアグリは土壌の水分量やEC(電気伝導率)がデータで分かるため、考える必要がなくなりました(山中さん)

収量については、ゼロアグリを導入した年に熊本地震が発生したため、水やりと肥料のデータを蓄積することができず苦戦したそう。しかし2016年にゼロアグリを導入したイチゴの収量は、好調に推移しているといいます。

石本さんは、農業にITを導入するメリットについて下記のように語りました。

親子で営む農家で、息子さんが担当しているトマトのハウスだけゼロアグリを導入したケースがありました。結果を見てみると、どのハウスよりもゼロアグリを導入したハウスの収量が多かった。お父様の見る目も変わり、これまでは感覚で教えていたのに対して、データという納得できる物差しで話せるようになるんですね。これは農業にITを導入するメリットだと思います(石本さん)

 

自身のスタイルを振り返るワークショップ

 

ワークショップでは、興味があるサービスごとにグループを分け、農作業や事務作業など、自身の生活におけるバランスについて記入してもらいました。

その後、時間があったら取り組みたいこと。理想的な農業のバランスについて、グループごとに共有。最後は、理想を叶えるためにできることについて、企業からアドバイスをもらいながら考える時間となりました。

普段は、自身が何に時間使っているか考えたことない農家さんも、お互いに意見を言ったり聞いたりすることが刺激となり、自分の知らなかったやり方を学んだことで、改めて自身のスタイルを振り返ることができたようです。

 

 

できる.agriではITを活用した農業の新しい姿を届けるため、今後もセミナーを開催していく予定です。次回は、4月25日(水)に千葉県で開催予定です。

 

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