SNSで農家のファンを増やしたい

国内有数の農業県、茨城県。中でも西端に位置する古河市は、肥沃な土地で知られています。

そんな地で、新規就農をした若い夫婦。SNSやインターネット販売を活用しながら、地域コミュニティの中で農業の魅力を伝え続けています。

地域の中で挑戦と発信を続ける、秋庭農園の秋庭夫妻にお話を伺いました。

 

地域とともに生きるー17代続く農家を継いで

 

ー覚さんがこちらの出身だということで、夫婦で新規就農したんですよね。

覚さん:そうです。この家は、もともと僕で17代目のコメ農家なんです。次男だったので、東京に出たときには継ぐ考えはなかったですね。都内のレストランでシェフを目指し料理人になりました。農業に興味はなかったのですが、 レストランでの仕事を続けているうちに、素材に目を向けるようになり、実家に戻って、始めは母の農業を手伝い始めました。最初は半農半シェフみたいな感じでしたね。

ー覚さんの決断に対して、寛子さんは?

寛子さん:農業にはもともと興味がありました。むしろ、古河で専業農家をしたいって言ったのは私ですね。

「子どもたちをどういうふうに育てたいか?」と考えたときに、都会で子育てをしている姿は考えられなかったんです。2人で「こんな農場をつくりたいね」という話も以前からしていましたし。

 

 

ーそれで、1年前から専業農家として活動されているんですね。今はどんな作物を栽培しているのでしょうか?

覚さん:ズッキーニが主力です。ズッキーニ、ブロッコリー、お米が三本柱ですね。JAを通じた販売や、レストランへの卸販売など、そういった地道な活動が収益の7割を占めています。

SNS発信ではハーブをクローズアップしています。妻がハーブティーブレンダーなので、それを生かしていこうと。

ーJAへの販売が主力なんですね。

覚さん:はじめは、ハーブティーブレンダーや飲食店の経験を生かして、飲食店におろしたり、定期的に東京のマルシェに出店し、個人のお客さんに販売したりするような農業がしたかったんです。 でも、多品目だと忙しくて家族の時間がなくなってしまうので、品目を絞って農協卸に集中することにしました。新規就農なので、まずは農業の基本を学ぶことにしようと。

ー最初は、地盤固めを優先したということですね。

覚さん:農協卸は、普通の野菜づくりなんだろうと思われがちなのですが、皆さん独自のやり方をやられているので、勉強になりますね。農薬の限界を感じて、自分で納豆菌などをつかって独自の防虫殺菌剤を作って散布したりしている方もいらっしゃいますし。

ーそれぞれの工夫があるんですね。

覚さん:皆さんがそれぞれ独自のやり方をされています。それを聞いているだけでも経験値になりますね。地道なことの積み重ねが、いずれ直接販売などの挑戦につながると思っています。

あとは、地道な仕事をがんばっていると、他の農家さんから信頼されるというのもありますね。

寛子さん:そうですね。地域の方から信頼されるのは大きくて。いろいろもらったりとか、貸してくれたりとか。

覚さん:高価な農機具を貸してくれたりもしますね。それが本当に助かってます。

 

 

ー逆に、地域の方に頼られることはあるんですか。

寛子さん:「田んぼやビニールハウスを借りてほしい」という相談はよく受けています。

ー「借りてほしい」ですか。

寛子さん:そうです。すごく多いですね。離農してしまう人が多いので。

田んぼの管理は難しいんですよね。何も育てていなくても雑草は生えてきてしまいますよね。草取りはしないといけない。雑草との戦いです。腰を痛めている人はもうどうしようもなくなってます。何百万もしたビニールハウスも放棄され、解体するにもお金が多くかかってしまい困っていると話がきます。

ー深刻な問題ですね。

寛子さん: 田んぼは場所によって法律で土地の用途が変えられず、簡単に売却することもできない。そうすると、できる人にお願いしたいっていう人がたくさん出てくる。

覚さん:空き家を借りてほしいという感覚と似ているかもしれない。

覚さん:自分たちだけのビジネスというよりは、地域とのバランスを含めた働き方が大切ですね。

家族を持っていなかったら、東京のマルシェに出たり、自分のやりたいことに突き進んでいたかもしれないですが。子どもたちも一緒にいるので、ここに根づいて、コミュニティを大切にしたいと思うようになりましたね。

寛子さん:家族も背負って、地域も背負って……という意識がありますね。地域のために、地域と一緒に、生きていく。

 

子どもたちにSNSで農業の感動を残したい

 

ーハーブの販売には、どんなツールを使っていますか。

都内のお店に置いて売ってもらったり、BASEというインターネット通販サービスを活用して販売したりしています。ラベルも自分たちで作りました。北欧のようなイメージです。知り合いのデザイナーにお願いして、デザインしてもらっています。イメージだけを伝えて。

覚さん:私たちにとっては、こういうデザインや発信が楽しいんですね。農業自体も楽しいですけど。目指すところは、インターネットを活用して農業の魅力の発信をしたり、食育をしたりするところにあります。

寛子さん:「農業は重たそうだけれども、ここは楽しそうだから来てみました」とよく言われますね。そういうイメージでどんどん発信していきたいと思っています。私もそういう感じで農業にはまっていったので。知らないのと知っているのでは違いますよね。うちに来てくれた人は、だいたい帰った後も家庭菜園などで楽しんでくれますよ。

ーそれはうれしいですね。

寛子さん:どちらかというと私たちは農業の世界の入口のところにいるのかなと。立って、軽いドアを開いて。そこから人を招き入れるような役割を担いたいですね。

 

 

ーSNSでの発信はほとんど寛子さんがしているのですか。

寛子さん:そうですね。もともと農業がすごく好き!というよりも、農業の魅力を多くの人に伝える、メッセンジャーのような役割をしたいと思っていました。

覚さん:私が品質管理や農場の仕事をやって、妻が広報係のような形で、自然に役割分担をしています。

寛子さん:そうですね。やっぱり発信が好きなんです。昔からずっと、なにかしらインターネットで発信していたので、私にとっては自然なことですね。ずっとお世話になっている方から「発信をずっと続けなさい」という言葉を頂いたこともあって、とにかくやり続けています。

ー今、発信の中でも特に注力しているテーマはありますか。

覚さん:食育ですね。SNSでも、イベントでもよく発信しています。例えば、地元の保育園の子どもたちに畑に来てもらって「変な形のジャガイモコンテスト」などをやっています。サトイモの「葉っぱ」をトトロの「傘」に見立てたり。スイカが嫌いな子どもが、「スイカ割りのスイカなら食べれる」と言ってくれたこともあります。体験がおいしさをつくるんだなあ、と実感していますね。

ーやっぱり違いがわかるんですね。

覚さん:で、こういう体験をSNSで発信することによってまた人が来てくれる。いい循環ができています。インターネットの力で農業を好きになってくれる、「農家のファン」が増えたらいいですね。

寛子さん:いつか子ども達にこの記事やSNSでの発信を見てもらえたらいいなぁと思っています。今の私達と同じ世代になった時に、「お父さんやお母さんは、農業で忙しそうにしていたけれど、あの時こんな事に感動して、楽しんでいたんだ」と感じてもらえればいいですね。両親の日々の記録が写真とともに残っているのって、とても心強いものがあるんじゃないでしょうか。

ー今後発信してみたいテーマはありますか。

寛子さん:何十年も農業を続けている義母の言葉は、やっぱり勉強になりますね。ハーブについてはかなり勉強しましたが、義母の和ハーブの知識にはかないませんね。ドクダミの活用法だとか、育っている場所だとか。そういうものは本には書いてありませんから。そういう知恵を言語化していけたらなと思っています。

 

「まず農家になるのをやめたほうがいい」新規就農の厳しい現実

 

ー苦労していることはありますか。

寛子さん:レストランに卸すのは不安定ですね。「今週はお休みさせてください」だとか「この作物は使いづらいのでいりません」だとかね。でも、その作物をとるために半年前から土づくりを始めてます。その時に「いらない」って言われちゃうと、無駄になってしまう。気持ちもすごく左右されてしまうんです。

覚さん:最初は、新規就農だからすごく下手に出ていました。経験も自信もないし。でも、今は見せ方を意識するようになって、高いと思われても一定の値段以上で買ってもらえるように交渉しています。

 

 

ー新規就農のときには誰かに相談したんですか。

覚さん:役所の農政課に相談に乗ってもらいました。新規就農者は話しに行ったほうがいいと思いますね。

寛子さん:でも、最初に行ったときは門前払いでしたね。「話にならない」と。夢ばかりみていて。

ー厳しいですね。

覚さん:野菜セットをつくって、年間でどれぐらいの売り上げになるのかというのをきちんと計算してもらいました。

「そんなんじゃやっていけないよ」と厳しい現実を教えてくれましたね。

寛子さん:農政課の人たちも大勢の失敗した人たちを見てきているので。夢を語って、1年2年やって、借金背負ってやめるっていう人たちが山ほどいる。そうなってほしくないって。

「まず農家になるのをやめたほうがいい」ってずっと言われていましたね(笑)

覚さん:それに加えて、

「ハーブの販売や体験農園といろいろやってますが、全部まとめて最終的な売り上げはいくらなの?」と。

「手広くやっていますが、最終的な売り上げはこんなに薄くなっていますよ」ということですよね。きれいごとだけではなく、現実をきちんと見せてもらいました。

ー実際に就農してからはどうでしたか。

寛子さん:毎年毎年学びの連続です。他の仕事と違って、やったことが確実に結果につながるわけではないので、そこが難しいですね。試行錯誤の繰り返しです。でも、毎年少しずつステップアップしているというのは感じていますね。

 

 

地元の人が気づいていない地域の魅力を発信したい

 

ーこれからどんなことをしていきたいですか。

覚さん:いろんな方が見に来てくださいますが、忙しくて丁寧に対応できないことも多くて。ですから、来てくださった皆さんが勝手に交流できるような、直売所みたいなものをつくりたいなと思っています。

寛子さん:古河市って、地元の人が気づいていない魅力がたくさんあるんですよ。例えば、雪の結晶のマークは、古河のお殿様が日本で初めて顕微鏡で観察して、スケッチしたものがもとになっていますす。「雪華図説」というものです。それが今では世界中で使われているんですよ。

ーそれは知らなかったです。すごいですね。

寛子さん:そうですよね。地元の人もこれがすごいことだってみんな気づいていないんですよ。だから、ハーブやお米のパッケージデザインに雪の結晶マークを取り入れてみたりしました。こういう、地元の人が気づいていない古河の魅力、農業の魅力をどんどん発信していきたいですね。

 

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