IT農業のコツは「小さく試す」の積み重ね―できる.agriセミナー第3回レポート

1月24日、できる.agri第3回目となる農業×ITセミナーを栃木県宇都宮市で開催しました。「生産と資金調達編」と題して開催された今回のセミナーでは、「阿部梨園」の佐川友彦さんによる特別講演を皮切りに、トークセッションでは「絹島グラベル」の長嶋智久さん「ごきげんファーム」の伊藤文弥さんの2名の農家さんに登壇いただきました。

今回の記事では、阿部梨園の佐川さんからのお話を中心に当日の様子を紹介します。

 

3年間で「小さな業務改善」を450件超実施

 

阿部梨園の佐川友彦さん

 

直売がメインの阿部梨園は、梨の質が高く評価されていた一方で、スタッフを採用するのが難しかったり、経営に関する知識が乏しいといった課題があったそう。そこにまったく別の業界から、中期のインターンシップ生として佐川さんが参加してきたことから、IT化の挑戦が加速したのでした。

代表の阿部と、小さな業務改善を100件くらい行えば、経営体質も変わるのではないかと考えて、実行してきました。最初の4カ月は70件くらいで終了したのですが、仕事が楽しくなってきたので、今では従業員として業務改善を続けています。実施した業務改善は一つ一つ記録していて、3年間で450件を超えていることが分かりました(佐川さん)

阿部梨園が取り組んだ経営改善は、事務作業から従業員の待遇改善、生産管理など様々。これらの小さな改善が実を結び、直売率が99%を超えるなどの成果が出てきたといいます。

そこで、佐川さんが考えたのは「阿部梨園と同じような悩みを抱えている農家のために、実施した小さな業務改善を『オンライン知恵袋』として公開する」こと。しかし農家は本当に必要としているのか、制作費は持ち出しにするのかなど、いくつかの課題がありました。

この不安を解決する手段として選んだのが、クラウドファンディングでした。インターネットで不特定多数の人々から資金を集めるクラウドファンディングに挑むことで、自分のアイデアが本当に必要とされているかを事前に精査し、さらに制作費を集めることが可能になる点が選択の理由だったといいます。

そして2017年11月、阿部梨園はCAMPFIREでクラウドファンディングを開始。わずか1週間で目標金額の100万円を達成し、最終的には300人を超える方々から450万円近くの支援が集まったのです。

 

阿部梨園が実施したクラウドファンディングページ

 

講演で佐川さんは、阿部梨園が実施してきた業務改善の中から、ITを活用したいくつかの事例を紹介。1つ目は、iPadを活用したレジアプリ「Airレジ」です。Airレジ導入により、何が何個売れたかというデータがリアルタイムに把握できるようになったといいます。

昨年(2017年)は、クレジットカードによる決済も導入しました。農家の軒先でクレジットカードを使えることに、喜んでくれるお客様も多いですね(佐川さん)

2つ目は、会計ソフトの「freee」。銀行口座やクレジットカードなどの情報と連携させることで、入出金やクレジットカードで何を買ったかという情報が自動で取り込まれるため、会計処理がスムーズになるそう。現金の扱いが減ることも一つのメリットです。

3つ目は、タスク(仕事)管理ツールの「Trello」を挙げました。カードベースでタスクを作成したり、移動させたりすることで、進捗状況が一目で把握可能です。アカウントが共有されていれば、自身が持つ端末から、いつでも進捗を確認・報告できます。これにより同じ時間、同じ場所にいないと進まないような業務を減らすことにつながったといいます。

 

Trelloの画面イメージ 出典:Trello

 

生産現場以外で使用できるサービスも増えていて、初期コストも低いので、試しに使ってみると良いのかなと思います。単なるコスト削減や仕事を楽にするという文脈だけでなく、ITの特徴を活かして「業務の質を向上させること」を意識してほしいです(佐川さん)

 

IT農業でかん水に必要な時間をゼロに

 

次に登壇いただいたのは絹島グラベルの長嶋智久さんと、ルートレック・ネットワークスの時津博直さん。長嶋さんがITシステムを導入しようと思ったのは、規模拡大を目指すタイミングで、奥さんが農業に興味を持ち始めたことがきっかけだそう。

そんな奥さんが栃木県の「農業女子プロジェクト」に参加し、栃木県のアグリビジネススクールを受講したことで、ゼロアグリとの出会いが生まれました。ちょうど「水管理を見直したい」と思っていた時期でもあった長嶋さんは、ゼロアグリのアドバイザーから話を聞いて導入を決めたのです。

これまでの水管理は、前職がパソコン関係だったこともあり、自作の液肥混入機を活用していました。でも精度が著しく悪くて、収量に貢献することはありませんでした。ゼロアグリを導入したことで、かん水に必要な時間がほぼゼロになりましたね。1年目なのでハッキリとした数字は分かりませんが、収量が伸びていることも実感しています(長嶋さん)

 

左から長嶋智久さんと時津博直さん

 

長嶋さんが目下のテーマとしているのは、一緒に働くパートさんが働きやすい環境を整えること。尊敬する先輩の「雇用を創出することが地域貢献」という言葉がきっかけだそう。

ルートレックの時津さんは、そんな長嶋さんの挑戦について次のように語りました。

できる.agriで掲載されていた取材で、長嶋さんが「憧れる先輩を見ていると、常に余裕がある。余裕がないと人に優しくできないから、経済的にも精神的にも余裕がある状態でいたい」と言及されていました。ITの導入は目的ではなく、目的を達成するための手段です。長嶋さんが人に優しくあるために、ゼロアグリが役に立てたら嬉しいなと思っています。

 

クラウドファンディングは信頼を可視化する

 

最後に登壇してくださったのは、ごきげんファームの伊藤文弥さんとCAMPFIRE×Tsukubaの渡辺ゆりかさん。2011年に創業したごきげんファームは、地域との関係を築きながら障害のある人たちが働く農場です。地域の耕作放棄地を使い、年間100種以上の野菜を作り、野菜セットを販売。現在では、様々な障害を持つ人たち100人以上が働いています。

ごきげんファームが取り組んだのは、お米の乾燥・選別・精米に必要な機械を購入するためのクラウドファンディング。「地域で愛される農場」として活動してきたつもりだけれど、本当に地域の人たちが思ってくれているかは分からない。怖さもあったけれど、クラウドファンディングで信頼を可視化することで、今後のやり方を考えようと思ったそうです。

実際に始めてみると、良いことがたくさんありました。野菜セットを売っていると、普段買ってくれるのは毎日料理をしているような女性が多いんです。クラウドファンディングを活用したことで、応援したい気持ちを持ってくれている人が多くいることが分かりました。でもインターネット上のつながりだけでは、支援が集まらないことがほとんどです。知り合いに直接会って、ビジョンを伝えたりすることも重要だと思っています(伊藤さん)

 

ごきげんファームの伊藤文弥さん

 

渡辺さんは、成功しているクラウドファンディングの特徴について、こう話します。

一番大きな要素は「人」だと思っています。プロジェクト自体の魅力だけで、多くの支援を集めることはなかなか難しい。伊藤さんがおっしゃったように、プロジェクトを作っている方が周囲から信頼されていてこそ、成功に近づくことが可能になると感じています。

ごきげんファームは、新しくオープンするレストラン「ごきげんキッチン」をより地域に役立つ存在としていくため、2018年1月に2回目のクラウドファンディングに挑戦。目標金額10万円に対して、20万円を超える支援が集まりました。

また新しい鶏舎を建設するため、次のクラウドファンディングも行う予定。伊藤さんは、あらためて「クラウドファンディングは資金を集めるだけでなく、私たちの問題意識や実現したい未来に賛同してもらう仲間を募るのに有効な手段」と語りました。

 

セミナー当日は、約20人の方々が参加してくださいました

 

自身のスタイルを振り返るワークショップ

 

ワークショップではグループに分かれ、農業で自分の理想を叶えるためには何をしたらいいか考える時間を作りました。

まず農作業や事務作業など、自身の生活におけるバランスについて記入。その後、時間があったら取り組みたいことや理想的な農業バランスについて、グループごとに共有しました。最後は、お互いにアドバイスしあう時間をとりました。

自身が何に時間を使っているか考えたことがなかったり、ITを活用した農業に馴染みのなかった農家さんも、お互いに意見を言ったり聞いたりすることが刺激となり、改めて自身のスタイルを振り返ることができたようです。

 

 

 

 

 

できる.agriはITを活用した農業の新しい姿を届けるため、今後もセミナーを開催する予定です。実施予定は、このWebサイトやFacebookページでお知らせします。

 

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