畑に入らない「農家の右腕」が続けた500以上の業務改善は、阿部梨園に多くのファンを生んだ

「畑に入らない農家の右腕」―大手化学メーカーの研究職を勢いで退職し、無給のインターンを経て阿部梨園に加わった佐川友彦さんは現在、このような愛称で呼ばれています。

「量より質」とこだわった梨づくりに取り組む阿部梨園の右腕となり、500以上の小さな業務改善を続けています。これにより、業務の効率化だけでなく直売率99%を実現しました。

2017年11月には、実施してきた業務改善のノウハウをWeb上に公開する「阿部梨園の知恵袋」を作るため、クラウドファンディングを活用。目標金額100万円に対して、450万円を超える支援が集まるなど、佐川さんの取り組みには大きな注目が集まっています。

今回そんな佐川さんに、ITツールを活用した農業の業務改善に加えて、クラウドファンディングを活用したファン作り、今後の展開などについて詳しく伺いました。

 

大企業の研究職から無給のインターンに

 

―佐川さんは「農家の右腕」として、阿部梨園に関わるようになったと伺いしました。どのような経緯で、農業に携わるようになったのでしょうか?

大学院まで農学を専攻していたので、農業に対する関心はあったのですが、卒業後は外資系の化学メーカーで研究開発職として働いていました。太陽光発電パネルの材料開発に携わっていましたが、ハードワークだったのもあり、生き方を考えたのがきっかけでしたね。

地元が群馬県なので北関東の生活感が良いな、ローカルな暮らしを実践するぞということで、4年前に会社を辞め、メーカー時代に住んだことのある栃木県宇都宮市に戻りました。

―そうだったんですね。会社を辞めてから、すぐに阿部梨園と出会ったのですか。

引っ越しても面白そうな仕事が見つからなくて、プラプラしながらどうしようかと考えていました。そのときに、面白い活動をしているNPOを見つけたんです。

―面白いNPOとは?

はい。当時地方への移住促進があまり行われていなかった中で、挑戦する若者と、若者を必要とする企業をつなぐ事業を行うNPOがあったんです。そのNPOに連絡をとってみたら、私が農学部を卒業していたこともあり、阿部梨園のインターン案件を教えてもらいました。

 

阿部梨園が手掛ける梨

 

―様々な仕事を検討する中で、なぜ阿部梨園の募集に参加したのでしょうか。

4ヵ月の無給インターンだったのですが、阿部梨園が掲げている「家業から事業へ」というテーマに惹かれたような気がします。研究職が中心のキャリアで、事業を作っていくという経験をしたことがなかったので、その経験を積めたらなと。

―インターンでは、どのような業務に取り組んだのですか?

最初は、インターンシップにありがちな「集客」とか「ブランディング」でした。たとえば、援農ボランティアを募集したり、販売促進イベントを開催したり。

しかし、現場に入って手伝う中で、「集客」ではなく、「経営そのもの」が阿部梨園のボトルネックになっていると感じました。

―「経営そのもの」とは、具体的に何を指しているのでしょうか。

阿部梨園は当時から品質の高い梨が評価され、県内トップの直販量でした。一方で、業務効率が悪かったり、経営に関するノウハウがたまっていなかったり。業界全体の問題ではあるのですが、図らずもワンマン経営になってしまっている印象がありました。

―まさに「家業から事業へ」に、佐川さんの役割を見出したんですね。

はい。阿部が美味しい梨を一生懸命作っていて、町はずれの直売所までわざわざ来てくれるほど熱心なお客様がいるのを見て、経営が追い付かないのはもったいないなと。そこで、残りのインターン期間で「100件の業務改善をしよう」と代表の阿部に提案したんです。

 

ITツールは関わる人々を支えてくれる

 

―業務改善では、具体的に何から始めたんですか?

まずは事務所の掃除から始めましたね(笑)。よそから来ている私がいきなり「業務改善」と言っても、従業員は「畑に出ないで何をしているんだ」と思いますよね。まずは、従業員の皆さんとの接点の場になる事務所を目に見えるかたちで改善することで、受け入れてもらえたらなと。

―そんなに地道なことから取り組まれていたのですね!

分別しやすいようゴミ箱に貼り紙をつけたり、書類の分類なども行いましたよ。阿部に対して、会社の方針やどのようなスタッフに働いてほしいかなどのヒアリングもしましたね。

インターンを始めて3か月くらいがたち、30~40件の業務改善を進める中で、さらに続けたらどのような成果が出るのか知りたかったですし、何より阿部と一緒に仕事をするのが楽しかったんです。そこで阿部に打診をして、従業員になることを決めました。

 

阿部梨園のスタッフの方々

 

―インターンから従業員と、立場が変わってから何か変化はありましたか?

そうですね。インターン中から、業務改善を進めていくためのデータがないことに課題を感じていました。そのため、iPadを活用したレジアプリや会計ソフトなどのITツールを活用し、まずはデータを蓄積することから始めたんです。

クラウド会計ソフトなら銀行口座やクレジットカードなどの情報と連携させることで、入出金やクレジットカードで何を買ったかという情報が自動で取り込まれるため、面倒な会計処理がスムーズになりますよね。現金を使わなくて良いことも一つのメリットです。

―データを取得することには、他にどのようなメリットがありましたか?

様々なデータが可視化されるので、業務改善の施策を考えられるだけでなく、周囲を説得する材料にもなりました。たとえば業務管理ができるツールでは、カードベースでタスクを作成したり、移動させたりすることで、仕事の進捗状況がすぐに分かるようになります。

アカウントが共有されていれば、自身が持つスマートフォンやタブレットなどの端末から、いつでも進捗を確認・報告できます。これにより同じ時間、同じ場所にいないと進まないような業務を減らすことにつながるので、長く愛用していますね。

―業務改善において、ITツールはどんな役割を果たしましたか。

梨のような果樹の場合、手作業でしかできないことも多く、単純に機械化やIT化を進めることが難しいんですよ。効率アップに最も効果的なのは、データをもとに労働条件や現場の雰囲気まで改善し、従業員が働きやすい環境を作ることだと思っています。

これにより、離職率が減り経験者が増えるので効率アップや教育コストの削減だけでなく、自分でデータを見ながら改善しようとする従業員が多くなりました。ITツールは何かを劇的に変えるものではなかったとしても、人を支えてくれるということを実感しましたね。

 

「阿部という経営者がいたからここまで来れた」

 

―経営改善を通して直売率が99%を超えるなどの成果が出る中で、そのノウハウを「阿部梨園の知恵袋」として公開されましたよね。他の農家に共有してしまうことは、阿部梨園にとってリスクという考え方もあると思います。なぜ公開したのでしょうか?

私たちが取り組んできた業務改善は、小さなものを合わせると500件を超えています。阿部梨園のビジネスが存続することは前提として、積み重ねてきたノウハウを共有することで他の農家に役に立てるのであれば、業界全体の成長に貢献したいという思いがありました。

悩みながら試したことなので、すぐに真似されてしまうのは正直寂しいですよ(笑)。阿部もオンライン知恵袋を公開したくない気持ちはあったと思いますが、他の農家が取り入れたからといって、阿部梨園の価値自体は下がらないかなと。業界全体の役に立つことで、既存のお客様が喜んでくれたり、初めて知った方が阿部梨園を覚えくれたら嬉しいです。

 

阿部梨園の知恵袋

 

―知恵袋を作るために、インターネット経由で不特定多数の支援者から資金を集める「クラウドファンディング」というプラットフォームを活用されました。

そうですね。オンライン知恵袋を作るときに、農家が本当に必要としているか分かりませんし、制作費がかかってしまいます。収益化しようと思っても、栃木県の一農家がただ作っただけでは、ただの自己満足になってしまい、注目はされないですよね。

事業計画を作って、収支を出すのがビジネスだと思うので、他力本願で飛び道具的なクラウドファンディングを活用するかは迷ったのですが、テストマーケティングや情報の拡散といった意味合いも含めて、挑戦してみることにしました。

最初は目標金額をいくらにするかも迷っていたのですが、ありがたいことに様々なメディアに紹介していただき、目標金額を大きく上回る支援をいただくことができましたね。

―支援してくれた方はどのような人が多かったですか?

阿部梨園の業務改善に関する取り組みを知ってくれていた知り合いの割合が多かったです。あとは農家ではないのですが、大学時代に農業系のサークルを経験して、今は全国の生産者を応援している若い方々から多くの支援をいただいたのも嬉しかったです。

―(2018年)5月7日に公開されたばかりですが、ノウハウの公開以外にこれから考えていることや、今後の展開については何か考えられていたりしますか?

まだ100件しか公開できていないので、まずはオンライン知恵袋を完成させることにこだわりたいです。そのうえで、300件を公開したら終わりではなく、色んな農家がノウハウを投稿できるようにして、常にアップデートされるような形になると面白いかもしれません。

―佐川さんご自身の展開についても、何かありましたら教えてください。

あまり決めていないのが正直なところですが(笑)、私と同じように右腕になりたい人材が農家と働く仕組みづくりは、一つの方向性としてアリかなと。一方で、頭脳プレーで農家に関わる人材に対して、対価を払う農家は少ないのも現実です。

だから、阿部と一緒だからこそ、ここまで来れたと思いますね。「農家ではない人が取り組んだ」ということで、私が注目されることが多いです。しかし、阿部の懐の深さや、本気で取り組んでくれたことが、経営改善がうまくいった一番の要因かなと感謝しています。

 


 

農業全体のことを考え、業務改善のノウハウを公開した佐川さん。できる.agriの第3回セミナーにも登壇していただき、IT農業の実践について話していただきました

こうした継続的な取り組みが、阿部梨園の知名度や印象の良さの向上につながっていると感じます。佐川さんのような、農家の右腕となる存在がもっと増えるといいですね。

 

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